母と息子のセンチメンタルジャーニー

そのため、ジムには「Grand canyon echo グランドキャニオンのやまびこ」と綽名をつけてやった私だが、同じ所作をして返事の遅いトムは差し詰め、「Whales’ sleep-talkくじらの寝言」か。

 思い出したのがトムの大荷物だ。宿で荷を解いて初めて知ったのだが、彼は今ハヤリの睡眠無呼吸症候群で、大きな呼吸器を持たなければどこへも行けないそうだ。

良く食べ、良く寝た彼の少年時代しか知らない私が初めて彼から聞く言葉だ。第一「睡眠無呼吸」なんて言葉を私は最近まで聞いたことがなかった。文明科学が発達した世の中の副産物か。

私はいままで、睡眠中に死んだ人はみな脳卒中とか心臓麻痺等で死んだものと思っていた。

この頃はよく自動車や電車の運転手が無呼吸で死んだと聞くが、本当だろうか。

これがなければ夜中に死んじまうかもしれないと、言いながら、大きなトースター2個ぐらいもある機械とマスクを

持って歩く息子が哀れになった。

一生大きなお荷物を背負って歩く息子は本当に哀れだ。

近藤誠先生に依れば、人間誰でもトシを取ればあちこちの器官が弱ってくるもの。それをいちいち元の健康体に戻そうとする薬、検査、療法、が返って早死にをまねく、という。高血圧しかり、高血糖値しかり、ガンまでも、トシと共に出てきて細胞が増えるのは当たり前だ、とのこと。私は医学の勉強はしなかったが、そのようなことは素人の私でも常識で解る。

その他、彼がバッグから取り出した物は、大きなパソコン、本職が持つような大きなカメラ、アイパッド等等。「お宝」の携帯で全部できるようなものを、わざわざ、それぞれ優秀?な機能をもつものを一つ一つ持って来ている。

始終カヌー漕ぎの為、ハワイに行っている彼だ。そのほかにも、私たちと共にドイツ、沖縄と、外国にも行っている彼だ。初めての外国旅行をする田舎モンとは違う。呆れてものが言えない。

チェックアウトタイム、ホテルに荷物を預けて外に出た私たちは、昼飯のため最寄りの居酒屋風の店に入る。一見したところ、直ぐ後ろに厨房を控えるこじんまりした店だ。中に入って驚いた。入ってすぐ左に10畳以上もある客席があり、大満員だ。無性に暑い。私がこれはダメだと、出ようとすると、若いのが寄って来て、それではこちらにどうぞと、厨房の前の通路を通って奥の客席に連れて行く。イヤとも言えず、附いて行くと、そこは靴をぬいで上がる畳の部屋で、3つある長いテーブルには疎らに人が座っている。座蒲団に足を曲げて座ることなど到底できぬ私は、直ぐ、ここもダメと言って踵を返すと、それでも店員はなお、ではどうぞこちらへと、厨房のすぐ前にたった一つ空いていたテーブルに導く。

店内の暑さ、大入り満員度、それも誰も店員を含めてマスクもしておらぬその場で、私は覚悟を決めざるを得なかった。どーぞと、椅子を引く店員にそれでもダメと言って出てくるガッツが私にはない。

コロナにうつるならここだナと、腹を決めた私は座った。それでもなるべく早く出ようと思って側を行き交う店員に矢継ぎ早にオーダーしたが、何を食べたか思い出せない。兎に角、出た時にはホットしたことは覚えている。

ホテルで荷物を受け取った私たちは、タクシーで、新大阪駅に向かう。四国行の予約を取る。