Mrs Reikoの長編小説  戦争花嫁                                               

                                 ドイツ 4   

   

 四日して瑤子は赤子のフィリップを連れて退院した。

アパートに帰った翌日、瑤子が椅子に座って赤子に乳を与えていると、クリスティ

が入ってきて「おめでとうございます」とニコニコして彼女にキスをした。

それを受けた瑤子は、「ありがとう」と言い、続けて、もう必要ないので辞めてもらう、と言った。

その後しばらくして、隣家のカザラスキーの妻が怒りも露わに瑤子の戸口に立った。

彼女のメイド部屋のマットレスが血で汚れている、と言い、お宅のメイドが流産したというではないか、と詰め寄った。

彼女はその時メイドを使っていなかったので、メイド部屋は空いていた筈で、クリスティがマットレスをすり替えたに違いないと、まるで瑤子の仕業のようにいきまいた。

瑤子のお産の時のためにと雇ったメイドだったのに、必要な時に役に立たず、おまけにメイドのマットレスまでも瑤子一家の責任で、弁償しなければならなかった。

瑤子はその後、向かいのアパートに住む、博美という二人子供のいる日本女性と付き合い始めた。

彼女の夫、サムは大酒飲みで、いつも酒ビンを手にしていた。

本当は四人子供がいた博美は、幼い二人をミシシッピーの夫の両親に預けて、六歳の長男と身重の体でドイツに来た、と言っていた。

残して来た子供達を懐かしがる風も見せず、さばさばして仙台弁丸出しでユーモラスなことを言って、瑤子を笑わせた。

ジャイロスコープという軍事訓練で、ハイルブロンの部隊全員が一度にコロラドの部隊と入れ替わる事になった。

瑤子は、いまだに自国民が最高人種, と思っているドイツはあまり好きになれず、未練も残さず、一家五人 相変わらずどんより曇ったブレマハーヴェンの港から軍用船に乗った。

ようやくクリブの枠につかまって立つことができるようになっていたフィリップは、船酔いのためか泣いてばかりいた。

いくらなだめても泣き止めぬフィリップをどうすることもできず、一家に一室が与えられたのを幸い、泣かせておくほかなかった。

食堂で三人の子供の世話をする瑤子の傍らで、アンディは向かい合わせた女と話しを始め、食事中話しを続けた。

一人で旅をしていたその女は、オハラ一家が席に着くやいなや、瑤子には挨拶もせず、アンディと話を始めるのであった。

子供達の世話を瑤子に押し付け、まるで独身男のように振る舞うアンディに腹を立てたが、こんな場所で喧嘩も出来ず、その女も、アンディをも無視する事にして何も言わなかった。