コロラド州 1
コロラドに着き, また住宅難が始まった
高級住宅が並ぶデンヴァー郊外の陸軍基地、フォートカールソンの家族住宅は満員で、暫く待たねばならぬ、と言われ、一家はパイクスピークスの高峰を眼前にする山中のキャビンに、ひとまず落ち着いた。
険しい傾斜に建てられたそのキャビンは、下の駐車場から2分ほど歩いて上がって来なければならなかった。
まるで月の世界のように荒々しい岩石が突出た山肌を見渡しながら、日本で聞いた「コロラドの月の夜」という、ロマンチックな歌とはなんという違いであろう、と瑤子は深い吐息をついた。
ドイツからの帰途、ヴァージニアに寄って持って来た自家用車ウィリスで、アンディは小一時間もかけて通勤し始めた。
キャビンの付近にはスーパーもなく、週末にカムセリに家族で行って買出しをする途中、デンヴァーの目抜き通り、一六番街の有名なデパートのショウウインドウを見るのが、瑤子の楽しみであった。
その頃日本では、瑤子の二番目の弟、武も就職したので、フィリップが生まれたのを機に、彼女が言い出して実家への送金を止めたが、生活は相変わらず苦しかった。
基地内のトレーラーが空いた、との知らせで行って見ると、それは今でいうキャンパーを少し大きくしたようなもので、それでもベッドルームが二つあった。
そのようなトレーラーが五十台くらい鋼鉄のワイヤーで固定され、トレーラー村を構成していた。
住居用トレーラーが出始めて間もない頃のことであった
基地内なのでアンディの通勤難が解消するということだけで、その小さなトレーラーに一家五人は移り住んだ。