Mrs Reikoの長編小説                     

          再びカリフォルニア州1

サンディエゴでは、相変わらず機転の利くフィリップが、二.三軒借家を探しておいてくれた。

瑤子はその中から一軒、海岸まで十分ほどの小さな二LDKを借りた。

大きな棕櫚の木が立ち並ぶ海岸への沿道には、赤や黄のハィビスカスが咲き乱れ、常時そよ風が海から吹いていた。

元金の二倍ほどに売れた家の金を手に、アンディとポールがやがて到着した。

次の家は瑤子の好きな家を買う、と約束したアンディは、瑤子と共に不動産屋と家を見て歩いた。

彼女が見つけた家は、矢張り海岸に近い広々とした三LDKで、前に生垣があり裏庭が板塀で囲まれていた。

羊歯や洋蘭の鉢が下げられそうな、四メートル四方の、スノコの屋根で被われた東屋も裏庭にあった。

まわりの家に比べて古いその家はがっしりして、使われた木材も落ち着いた光沢を放っていた。

近くには歩いて行ける店もあり、なにかにつけて便利な場所は、辺鄙な田舎から出たばかりの瑤子には物珍しく、少し高かったが半分をローンにして買うことにした。

その家はアンディも気に入り、三十分ほどで行ける州立大学にバイクで通うフィリップも、家賃と食費を払って一緒に住むことになった。

休暇を取って来ていたポールは、任地のコロラドに帰って行った。

瑤子は早速、幾種類もの野菜や木を植えたりして、毎日半日は外で暮らした。

アンディも、マケドミアン、レモン、いちじく、アボカド等の苗木を裏庭に植え、富有柿を前庭に植えた。

水さえ遣っていれば何もかも驚くほど成長が早く、木によっては次の年に実をつけ始めたものもあった。

しかし、モグラの被害が酷く、彼らは畑の野菜を根から食い荒らした。

湿った土の上部に食べ物があることを知っているモグラは、確実に野菜を見つけて下から根を引いて食べた。

罠をかけても迷路のように広がったトンネルに住む彼等は、なかなか捕まらなかった。

それに、取っても、取っても出て来るカタツムリが野菜の葉を食い荒らした。

フランス人が料理用に持ち込んだ、と言われるカタツムリは踏むのも気味が悪いほど大きかった。

しかし瑤子が植えたバラや椿に被害は無く、それらは見事な花をつけた。

海岸に打ち寄せられる長さ二十メートルもある海草を彼は採って来て、土に混ぜて堆肥にした。

月夜の夜半、海辺にグラニヨンと呼ばれる、ししゃもに似た小魚が卵を産みに押し寄せて来る季節がある。

キラキラ光る細長い胴体の魚は、急いで掴まなければクルクル錐のように回りながら、頭から砂に潜り込んでしまうので、アンディとビーチに行った瑤子は、歓声を上げながら一匹ずつ掴み取り、次から次へとバケツに入れた。

家に帰ってすぐカラ揚げにして食べてみると、新鮮な小魚は骨まで食べられて美味しかった。