Mrs Reikoの長編小説                     

                  邂逅 再びカリフォルニア州 6

 

子供達の事を考えると、生きるしかない、と決心した。

その為には歯を食いしばってでも大学を卒業しようと思った。

彼女は既に四年制のサンディエゴ州立大学に願書を出して受領され、九月からそこへ行くことになっていた。

五十三歳の彼女は五十五歳までに卒業しようと、目標をたてた。

周囲の者たちは「卒業してどうする」と笑った。そして、彼女が卒業できるとは思っていないようだった。

専攻の英文学はどんどん難しくなり、彼女は一学期毎に英文学や、選択科目の数学、科学、哲学と、両手に持ちきれぬほどの本を買い、読書、リポート、試験で明け暮れした。

英文字で残されている最古の詩、“キャデモンの賛美歌”や“十字架の夢”、は手に負えぬ程難解であったが、瑤子はまるで自虐的に読み続け、いつもクラスの最前列で、教授の説明を一言も聞き漏らすまいと、耳を傾けた

次第に理解できるようになり、クラシックを読むことが楽しくなった瑤子であったが、(間男された夫)という言葉を好んで使うシェークスピアの劇作を読む度に、アンディを思って泣いた。

本を読みながらご飯を食べるほど勉強に追われていた瑤子だが、この齢まで一人で住んだことのなかった瑤子は寂しさがヒシヒシと身にしみた。

旅行をしたくても学校を止める気にはどうしてもならなかった彼女は、高い料金も構わず、日本の母親に二.三日おきに電話した。

母親は根気良く瑤子の相手になって一時間でも喋っていた。

受話器を伝って来るその声がまるで命綱のように、瑤子は電話にしがみついていた。

ヴァージニアの友達や親類にも始終電話したので、電話代は膨大に膨れ上がったが、それを交際費と見なして電話をかけるのを止めなかった。

やがて電話をかける相手に窮した彼女は、とうとう、ハッキリ覚えていたグリーソンの姓名を言って、交換手に電話番号を調べさせた。

番号はすぐ判り、電話はすぐ通じた。