SLとコークスの記

昭和20年から31年までの少女時代を過ごした当時の尻内は鉄道の町だった。

広い駅構内には、今ではSLマニア達が熱狂する蒸気機関車が、あっちでも、こっちでもゴットン、ゴットンと入換えをしていた。

駅構内と一般道路との境には何の仕切りもなく、その道一つへだてた所にあった、家の窓からは、止まっている機関車の中の機関士の表情さへも読み取れる近さに我が家はあった。

 真っ黒な巨体から、もくもくと煙を吐き続け、おびただしい煤をまき散らしながら、町を、洗濯物を、雀さへも煤色に染めた蒸気機関車は沿線に住む人たちを、どんなにか悩ませた事だろう。

でも、当時は尻内は汽車の町だから煤が出るのは当たり前、と誰もが思っていた。

真っ黒い怪物のような鋼鉄の固まり。見上げる程大きな動輪、リズミカルに動く連結棒、シューシュー、ピーポー絶え間なしに音を出し続ける巨体、あたかもそれは生き物のように威風堂々として、あたりを睥睨していた。

機関室の中でナス紺の制服を着て黙々と働く二人の人影、スコップで頻繁に投げ入れる石炭の山、釜のなかで赤々と燃える火焔。これらの光景が残像のように今も瞼に焼き付いている。  続く