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クリスマスの週のニュースレターが廻って来た
ホームでは使用人に常時チップを受け取らせないがクリスマスは特別でスタッフ以外総勢22人にチップを受け取る事を許可する。
ついては食堂に寄付箱を用意して住人の中からボランティアーのダレソレさんを係にするから、どうぞご協力を、と封筒迄そえられてあった。
たまに好感がもてる使用人にチップをやりたい気にならぬでもなかったが、抑えていた私だが、封筒まで添えられているとはちょっと強制的だ。
図書室で会ったシャーリーに聞くと、あまり出す人は居ないそうだ。
ホームでは一人につき10ドルくらいはやりたいそうだが、なかなかそんなに出す人は居ない、と言う。
私は10ドルくらいやっても良い、と思っていたので、直ぐ300ドル封筒に入れて寄付箱を探したが見つからない。
クリスマスの直前にも、まだ寄付箱が何処にあるか、オフィスの人たちも知らない、と言う。
3回聞いて答えが得られなかった私は、いつまでも煩わしい
と思い、そこに居たオフィスの男が、自分がケンに渡す、と言うので手渡した。
男が直ぐにケンのオフィスに入るのを見届けたが、何だかすっきりしない。
クリスマスパーティに出席しなかった私は、一人いくら貰ったかは知らない。
しかし約80人の住民が一人に10ドルづつやったら使用人たちは大喜びであったろうが、そんな風にも見えなかった。
とにかく強制的なチップはゴメンだ。
この世の楽園に思えたホームだったいざ生活してみると、あちこち綻びが見えてきて、そろそろ息子の持ち家に移る事を決心した方が良さそうだ。
息子の家は辺鄙な所にあるが、風光明媚な山中にある。
貸していた一軒が丁度空き家になったので、そこへ来ないか、と誘われていたのだ。
ホームに払っていた額をそのまま家賃として出す、と言ったら息子は願ってもない事だと大喜びだ。
息子の嫁さんも大喜びで色々気を使ってくれる。
色々経験して、この世に天国はない、と悟った身だ。
終の棲家はここと決めて頑張ろう。 完