2023-04-01から1ヶ月間の記事一覧

天使の介護 淳子さんの事

♪さいた、さいた、チューリップの花が♪ 淳子さんが耳元でささやくと、 ♪ならんだ、ならんだ、赤白黄色♪ とお母さんが口ずさむそうです。 淳子さんは94歳のお母さんを介護しています。 10年ほど前から車椅子生活になり、そのころは車に乗せて毎日のようにドラ…

Mrs Reikoの長編小説                             

終焉 再びカリフォルニア州 22 オリンピックのため瑤子がラクーン狩に行けず、グリーソンは焦れていた。 ようやく暇になった瑤子と毎晩のように狩に出ていたが、ある夜彼は、今夜はどこにも行かずに君と、ゆっくりする、と言って部屋のソファーに座りこんだ…

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オリンピック 再びカリフォルニア州 21 開会式の二日前の七月一七日、TWAの旅客機がニューヨーク州のロングアイランド付近で事故に会い、乗客と乗務員二、三十人が、海に沈んだ、というニュースが、選手歓迎の用意のため集まったボランテヤ通訳団に伝えら…

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オリンピック 再びカリフォルニア州 20 久しぶりに、ヴァージニアにいるエミィに会いに行こうと思い立った。 三月というのに、ヴァージニアのノーフォークでは霙が降っていた。 エミイはアートという、瑤子がカリフォルニアで最後に話した男とまだ一緒に住ん…

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オリンピック 再びカリフォルニア州 19 食事の世話をしてやる、とは言ったものの、掃除までしてやる、とは言った覚えの無い瑤子はある日、自分の荷物を車に積むと、近所のアパートに部屋を借りて移った。 広い芝生と池のある、エアコン付きの洒落たアパート…

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残照 再びカリフォルニア州 18 その晩瑤子は、懐中電灯を持って、彼とラクーン狩に行った。 大分耳の遠くなった彼は、瑤子に犬がどの方角で吠えているか、聞いた。 その後、彼女は聞かれなくても、鳴き声の方角に黙って懐中電灯を向けるようになった。 そし…

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残照 再びカリフォルニア州 17 彼女にはもっと色々したいことがあるような気がしたのだ。 仕事を辞めて暫く家で本を読んだり、田辺聖子や小林多喜二の翻訳をしたりしていた瑤子は、ある日、グリーソンから電話を受けた。 頼子が日本に二週間の予定で行ってい…

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残照 再びカリフォルニア州 16 悲しみを忘れようと瑤子は今まで以上に仕事に打ち込んだ。 シャープという病院に専属して、翻訳兼通訳をすることになった。 ポケベルを持たされ、必要に応じて五軒の分院を車で廻って通訳を勤め、本院のオフイスでも事務を取っ…

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慟哭 再びカリフォルニア州 15 空軍からポールの死因のリポートが届いた。 それによると、彼は自分の部屋で縊死したようであった。 調査が長引いたのは遺書も無いため、自殺と断定するのに時間がかかったようであった。 彼の周辺を徹底的に調査した上でのリ…

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慟哭 再びカリフォルニア州 14 葬儀の後二週間ほどしたある日、頼子が電話で、夫がそちらに行く、と言ってるが、早々に追い帰してやって、と言った。 彼にはとても会いたかったが、彼女は今、子供たちを数人教えていて、親たちにも尊敬されている立場であり…

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慟哭 再びカリフォルニア州 13 六月の一四日に、ポールが死んだ。 後二ヶ月ほどでドイツから帰国する予定であった彼が事故で死んだ、と空軍は説明した。 その朝、瑤子はいつものように体操をするつもりで着ていた、漫画が描かれたポールの古いシャツで、ドア…

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自立 再びカリフォルニア州 12 卒業直後、身の振り方を考える暇も無く、サンディエゴ界隈に住む、日本人商社マンの家庭から英語の家庭教師を頼まれ、瑤子は忙しく働きだした。 他の仕事よりずっと良い環境で、収入も申し分なかった。彼女のカレンダーはいつ…

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邂逅 再びカリフォルニア州 11 休暇を終えて家に帰った瑤子は少ない収入を補うため、たまに行く寿司屋の若い日本人板前に部屋を貸した。 頼子に電話で下宿人の話しをした後、彼女はすぐ夫に伝えたものとみえ、彼の電話の態度が途端に素っ気なくなった 彼の嫉…

Mrs Reikoの長編小説                    

邂逅 再びカリフォルニア州 10 大学は後一年ほどの辛抱であった。 膨大な数の生徒の中、彼女は駐車のスペース獲得のため、ほとんど毎朝七時に家を出て車を渋滞の流れに乗り入れた。 駐車場に着いた後クラスが始まる時間まで、彼女は車内で勉強した。 ほとん…

Mrs Reikoの長編小説                    

邂逅 再びカリフォルニア州 9 牛を飼っている農場を見せる、と言って彼は瑤子を促した。 農場はそこから二十分ほどのまだ田舎にあった。 彼は鎖で閉められた大きなゲートを開けてトラックを乗り入れ、降りてまたゲートに鎖をかけた。 ブラックアンガス牛の群…