2023-01-01から1年間の記事一覧

Mrs Reikoの長編小説    サンタ アナの風

20 十メートル程歩いた頃砂山の陰から二人の大男が突然踊りだすように前に立ちはだかった。 「ストップ ライツ ゼア(そこで止まれ)」と、ピストルを突きつけて命令した。 棒立ちになった三人に近づいて来たボーダーパトロールは厳しい顔つきで「お前たちは…

Mrs Reikoの長編小説    サンタ アナの風 編集

19 闘牛場の裏のサボテンやタンブルウイード(乾燥地や塩性地に生えるオカヒジキ属の植物秋になるとボール状に成長し、原野をころころと転がるので回転草と呼ぶ)があちこちに生えている傾斜面を転げるように走り出したはあはあと息を切らして、こんもりとし…

Mrs Reikoの長編小説    サンタ アナの風

18 それには答えずジョージは淡々と話しを続けた。 「あの夜から三週間ほど前、僕はいつまでもこんな闇の世界で生きてはいけないと思い、僕をこの世界に入れたある男の所に行き、辞めたいんだ、と話しました。ところが、当然なことながら、この世界に一度足…

Mrs Reikoの長編小説    サンタ アナの風

17 テイファナの町の手前で右に曲がり町沿いに丘を上ると二十分程で海辺の断崖の上に建てられた円形の闘牛場が見える。 「あの横を少し行った所に瓦工場があるからそこに入れ」 とホセは指図する。 街灯もなく、暗い道は海の音ばかり耳につく寂しい所だ。 長…

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16 ドアの外に人の気配を感じハっとしてそちらを見るとあまり背の高くない男が戸口に立っていた。 「金はもってきたか?」と、短く鋭い声で聞くのに、「イエス」と答えると、「来い」 と言って先に外に出る。 外はいつの間にか夕闇がせまって周りの家や工場…

Mrs Reikoの長編小説    サンタ アナの風

14 一分二分と緊張した時が過ぎても何事も起こらず、二人はふうっと大きく息をついた。 「直ぐには出てこないのかもしれないわね」 真紀が先ず口を開いた。 「ポリスが後ろの方で見ているかと思って慎重にしているのでしょう」と佳恵も緊張した表情で答えた…

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13 マブリックのドアを開けて真紀を運転席の横に座らせた佳恵は「コロナド橋を通っていく方が近いようだから」と車をバルム アベニューで左折させ両側に海が見えるシルヴァーストランド ブルーヴァードを飛ばした 右に見える奥行きの深いサン ディエゴ湾は湖…

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12 裏庭のあまり陽の射さない場所に椿を植えていた真紀は二本目を植えてから立ち上がりうーんと腰を伸ばした。 しばらくしていない庭仕事は,忘れていたあちこちの関節を思い出させるような骨の折れる仕事である。 一メートル程の椿の苗木には花の色を示す色…

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12 「行きましょう」閉められた小窓の側に呆然と立ち尽くしている佳恵を促して外に出た。 外に出た二人はかっと明るいメキシコの太陽に眼を射られて思わず瞼をこすった。 「ドクトル何か知っているように思えるけど、なかなか一筋縄ではいきそうにもないわね…

Mrs Reikoの長編小説    サンタ アナの風

11 五番街のホテル デル レイの前には空いてる駐車場がなく、そこから大通りを二つ越した先の「一時間五十セント」と英語で書いてある駐車場に車を預けた。 足場の悪い歩道で、ともすると転びそうになりながら人波に押され、青いビロードに描かれた絵とか、…

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10 「行くって、あなた一人でティフアナに行った事あるの?」 「無いわ一度だけマイケルが見物に連れて行ってくれた事があるけど、もう七、八年前のことよ」 「だって事故でも起こしたら一生そこの留置場で過ごすようになるかもしれなくってよ」 「ジョージ…

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9 「あら、こんにちは」 スーパーマッケット、「アルファ ベタ」のコカコーラやペプシコーラが並べられてある前でばったり会った芙美子は半分程品物の入ったカートを押しながらかん高い声で真紀に笑いかけた」 「ええ、毎日なんと言う事なしよ」 真紀は後ろ…

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8 Uターンを終えてからちらっとホテルの方を見るとホテルではなく、右隣の歯医者のドアから中に消えて行くジョージの姿が一瞬真紀の目にうつった。 若い恋人同士や酔っ払いが我がもの顔で歩く車道をハラハラしながら運転してようやく立体交差に出て、ホッと…

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7 車を5号線に入れ南に向かってスピードを出した 。夜の十二時を過ぎたハイウェイは他に走ってる車もなく、まるで、真紀一人のためだけの道路であった。 「この事は父母にも言わずに頂ければ有難いのですが。アナポリスから帰って以来ファーザーは僕に怒り…

Mrs Reikoの長編小説    サンタ アナの風

6 「さあ、もうご用も済んだことだし、私も帰って寝るわ、マイケルお休みなさい」 と真紀は立ち上がった。 真紀を見送りながら「どうも色々有難うございました。私に出来ることがあったら何でも言ってね」と佳恵は礼を言った。 「今度の土曜日にバーベキュ…

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5 待ちかねていたようにドアが内側からさっと開き佳恵の小柄な姿が内部の灯りに浮き出された。 「またかかってきたわ。今度は嫌に丁寧な言葉でジョージはまだ帰らないかとか、妹のミリーは確か十六歳になったと聞いたが、とか関係ないことを言ったりして・・…

蜜蜂 分蜂

蜜蜂の越冬に失敗した夫は春になり蜜蜂の捕獲に懸命です。 昨年巣箱を置いてあった所とか、長い事、蜂が住み続けている電信柱の側に巣箱を設置して、分蜂した、蜂の入居を待っています。。 5月9日、雨が上がり久しぶりに太陽が出て暖かくなったので巣箱の観…

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4 祖国を離れて以来あちこち移転ばかりしてきた真紀であったが何処へ行っても日本人どうし肩を寄せて助け合ってきた。 佳恵の心細さがよく解るのであった。 佳恵は気が良くて親切であるから友人も沢山居そうなのに、三人の子供達を育てる事に追われて付き合…

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3 メキシコ料理店や中古自動車売場、ポルノ店など雑多な店が広い道の両側に隙間無く並ぶパルム アヴェニューを十分ほど西に行き右に曲がって六軒目が最近真紀たちが買った家である。 外観は小さく見えるが、大学に通う二十一歳の息子ケネスと親子三人で暮ら…

Mrs Reikoの長編小説      サンタ アナの風

2 ミス コーリンスは一応皆にケ ラスティマーを言わせた後「ムイ ビエン(大変結構)」を繰り返し「今夜はここまで」と言って優しい笑顔でクラスを終えた。 真紀はいつものことながら自分の倍程の年の生徒も居るクラスを子供のように扱って授業をやすやすと…

Mrs Reikoの長編小説

サンタ アナの風 「ケ ラスティマー オハラ ケ セ メホレ プロント!」(それはそれは早くお治りになりますように)」 一気に言い終えて真紀は、ふっとため息をつく。 陽気なアメリカ人ばかりのクラスから「イエー」と歓声があがり、美人のスペイン語教師ミ…

無知の告白

庭のアケビの花が見事に満開になりました。 綺麗だったので切り花にして食卓に飾りました。 良く見ると花の他にスズランの花のような白くて丸い物がついています。 夫に聞いたら雄花だと言います。え?一本の木に雌花、雄花が、ついてるの? 夫が何を今更、…

天使の介護 淳子さんの事

♪さいた、さいた、チューリップの花が♪ 淳子さんが耳元でささやくと、 ♪ならんだ、ならんだ、赤白黄色♪ とお母さんが口ずさむそうです。 淳子さんは94歳のお母さんを介護しています。 10年ほど前から車椅子生活になり、そのころは車に乗せて毎日のようにドラ…

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終焉 再びカリフォルニア州 22 オリンピックのため瑤子がラクーン狩に行けず、グリーソンは焦れていた。 ようやく暇になった瑤子と毎晩のように狩に出ていたが、ある夜彼は、今夜はどこにも行かずに君と、ゆっくりする、と言って部屋のソファーに座りこんだ…

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オリンピック 再びカリフォルニア州 21 開会式の二日前の七月一七日、TWAの旅客機がニューヨーク州のロングアイランド付近で事故に会い、乗客と乗務員二、三十人が、海に沈んだ、というニュースが、選手歓迎の用意のため集まったボランテヤ通訳団に伝えら…

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オリンピック 再びカリフォルニア州 20 久しぶりに、ヴァージニアにいるエミィに会いに行こうと思い立った。 三月というのに、ヴァージニアのノーフォークでは霙が降っていた。 エミイはアートという、瑤子がカリフォルニアで最後に話した男とまだ一緒に住ん…

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オリンピック 再びカリフォルニア州 19 食事の世話をしてやる、とは言ったものの、掃除までしてやる、とは言った覚えの無い瑤子はある日、自分の荷物を車に積むと、近所のアパートに部屋を借りて移った。 広い芝生と池のある、エアコン付きの洒落たアパート…

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残照 再びカリフォルニア州 18 その晩瑤子は、懐中電灯を持って、彼とラクーン狩に行った。 大分耳の遠くなった彼は、瑤子に犬がどの方角で吠えているか、聞いた。 その後、彼女は聞かれなくても、鳴き声の方角に黙って懐中電灯を向けるようになった。 そし…

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残照 再びカリフォルニア州 17 彼女にはもっと色々したいことがあるような気がしたのだ。 仕事を辞めて暫く家で本を読んだり、田辺聖子や小林多喜二の翻訳をしたりしていた瑤子は、ある日、グリーソンから電話を受けた。 頼子が日本に二週間の予定で行ってい…

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残照 再びカリフォルニア州 16 悲しみを忘れようと瑤子は今まで以上に仕事に打ち込んだ。 シャープという病院に専属して、翻訳兼通訳をすることになった。 ポケベルを持たされ、必要に応じて五軒の分院を車で廻って通訳を勤め、本院のオフイスでも事務を取っ…