2023-01-01から1ヶ月間の記事一覧

Mrs Reikoの長編小説  戦争花嫁                         

共同生活 ニュージャージー州 3 四、五日の入院後、節子は帰ってきた。 彼女を気使うあまり、ジョーンズがくどいほど瑤子にあれこれ指図するので、我慢できなくなった瑤子は「私は家政婦でも看護婦でもないのよ」と、節子に言った。 自分のベッドとロバート…

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共同生活 ニュージャージー州 2 瑤子は彼らと一緒の家に住むということさえ知らなかった。 メソメソ泣いてばかりいるジョージと、やたら歩き回って悪戯するエミイ、それに ロバートの世話で瑤子はクタクタになった。 ロバートは手のかからぬ子であったが、よ…

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共同生活 ニュージャージー州 1 1995年の夏、彼はドイツに行くよう、命令を受けた。 ドイツの米軍家族宿舎は一年以上も待たねば空かぬ、と言われ、その上、現在住んでいるアパートはすぐ明け渡すように言われた。 ともかく、出港地のニューヨーク近くの土地…

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苦難 カリフォルニア州 3 その春、モンテレィパークという、軍が契約している新しいデュプレックス (二軒長屋)に移った 真新しい平屋のアパートからは海も見え気持ちが良かったが、内からドアのノブにはめ込まれたボタンを押すと、外からは開けられぬが、…

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苦難 カリフォルニア州 2 翌年の一月八日に長男のロバートが生まれた。 未熟な軍の医師の取り上げで、瑤子は酷い脱肛を起こした。 出産前に聞かれた時、赤ん坊には母乳を与えると、告げてあったので、数時間ごとに連れて来られるロバートに、坐って乳を与え…

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苦難 カリフォルニア州 1 八月、アンディの任期が終わり、三十年を軍隊で過ごす、と結婚前から言っていた彼は、再志願をカリフォルニアですると、瑤子たちを連れに来た。 初めて乗ったカリフォルニア行きの飛行機はプロペラ式のもので、瑤子はこわごわ雲の…

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アメリカ上陸 6 彼から電話があった時、そのことを告げ、「本当に驚いたのよ」と言っても、その場に居合わせなかった彼にはピンとこなかったようであった。 アンディは一ヶ月に一度ほど週末に帰ってきていた。 そのうち体の変調に気付いた瑤子は、往診してく…

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アメリカ上陸 5 目立った苛めかたはしなかったものの、姑は時々瑤子の胸をつく言動をした。 アンディの姉のルーシィが二人の男の子の後、初めて女の子を産んだ時、大喜びした彼女が、「私たちの初めての女孫だ」と瑤子に告げた時、今更ながら自分とエミイの…

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アメリカ上陸 4 基地で経験したアメリカ人たちの傲慢ぶりはどこにも見当たらず、みな気の良さそうな人たちに見えた。 両親は五十代で、痩せて恐ろしく背の高い父親は、剛いごま塩の髪の下の顔が白人にしてはひどく浅黒かった。 刑務所のガードをしていて、始…

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アメリカ上陸 3 そこで乗り換えたリッチモンド、行きの列車で、また一晩過ごした瑤子たちは、ようやく中世の城のようなリッチモンド駅に到着した。 アンディの弟のテッドが迎えに来ていた。 六年離れていた間に三才上のアンディより背が高くなっていたテッド…

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アメリカ上陸 2 船は出港後二週間でようやくシアトルに入港した。 船のエンジンが止まった直後、船室を片付けに来たボーイが、“「アメリカにオレンジはいっぱいある」 と言いながらそこにあったオレンジを丸い窓からポイと捨てた。 夕闇のシアトルの港と町は…

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アメリカ上陸 1 横浜で乗り込んだ、ペンキの匂いが強い灰色の軍用船で、瑤子とエミイは日本女性と小さな女の子の相部屋に入れられた。 三才ほどの愛らしい女の子は黒人との混血で、母親は上品な京言葉を話す三十才近い、たおやかな美人であった。 「この子…

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青春 13 出立の朝、伯母や近所のおばさんたちが集まって見送ってくれた。 母はヨチヨチ歩きのエミィのために涙をこぼした。 利発なエミィは誕生日前から、「オバアチャンはどこ?」と聞くと、母の方を指差すようになっていた。 東京に着き、アンディがとって…

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青春 12 アンディは暇を見つけては彼女の許に通って来た。 車はその頃売ってしまっていたので、彼は一駅向こうから汽車に乗って来た。 映画館のことで時々出張があるらしく、ある日のこと、彼は乗って来た米軍列車が十分以内に駅を出るからと、ブーツも脱が…

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青春 11 東京に着いた彼女は、最近未亡人になったばかりの、立川郊外の伯母の家に下宿させてもらい、毎日、青梅線、中央線、山手線と乗り換えて、品川まで通った。 学校では、軍のトラックと比べものにならない、古ぼけた大きなトラックで練習させられた。 …

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青春 10 初めて二人が会ってから十ヶ月ほど経っていた。 それから二人はほとんど毎晩のようにドライヴに出た。 未だ、道路は粗末で、車もあまり通らなかった時代なので、ひと気の無い美しい静かな場所は、野に山に海辺にと、多くあった。 どこにいても二人は…

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青春 9 彼は、ポプコーンだのハンバーガーだのを毎晩のようにPXから買って来て、自分も食べ、耀子にも食べさせた。 甘いものの好きな彼は、たまにキャンデー バーを箱ごと買って来て耀子に持たせたりもしたので、それまで痩せていた耀子は急に肉付きが良く…

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青春 8 昼夜顔を合わすオハラとは最も親しくなり、冗談を言い合う間柄になった。 オハラは年下の耀子を揶揄したり、ワザと苛める振りをしたりした。 彼女が小学校時代水泳の選手だった、と言うと、彼は沖の小船まで競泳しよう、と言い出し、悠悠と勝ち抜いて…

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青春 7 夏になった。東北の夏は短く、肌寒い日が続いたりして、滅多に泳ぐほど暑くならなかったが、水泳の好きな耀子は、毎日のように寮から坂を下りて15分ほどの、漁師の家が点在する海岸に歩いて行った。 水着などまだ売られてなかったので、彼女は米軍家…

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青春 6 旧日本軍の格納庫を改造した、とてつもなく大きな映画館には、ホイットレイという曹長と、オハラという上等兵のほか、20人ほどの日本男性が働いていた。 30過ぎのホイットレイは、不敵な顔の肥った大男で、まだ20歳ほどのオハラは、ひょろりと背…

Mrs Reikoの長編小説      戦争花嫁           

青春 5 ある日、花子が風邪を引いて仕事を休んだ。 耀子は寮で一人寂しく寝ている彼女を思い、ハウスからなにか食べ物を持って行ってやろうと、思いたった。 その頃にはケチなワイフも、居残るメイドに晩飯の残り物を食べさせていた。 ちょうど美津子のベビ…

Mrs Reikoの長編小説      戦争花嫁           

青春 4 ある朝、耀子がハウスに行くと、家の中が蜂の巣をつついたように騒々しく、レコードのジャズ音楽がガンガン鳴っているリビングルームには、それぞれグラスを手にした30人あまりのアメリカ人が立ちながら笑いさざめいていた。 ポカンとしている耀子に…

Mrs Reikoの長編小説      戦争花嫁           

青春 3 最初に行ったハウスは、ヘットリンガーという大尉の家で、ドイツ人だというワイフは、始めての子を妊娠中で大きなお腹を抱えていた。 ワイフが来るまで、大尉の前任地の独身将校宿舎から引き続き付いて来たというボーイの平岡という25才位の男が万事取…

Mrs Reikoの長編小説 戦争浜嫁

青春 2 その頃、旧日本軍の飛行場建設中だった小高い山の高台に進駐軍の宿舎建設のため、近所の大人たちは勤労奉仕として駆り出されていた。 女学校を止めた瑤子は、その大人たちに交じって土方工事に通うようになった。 笑顔良し、といわれ、プクッとした…

Mrs Reikoの長編小説  戦争花嫁

青春 1 瑤子は,バスの中で久しぶりに会った女学校時代の友人、澄江に「明日アメリカに発つのよ」と告げた。 突然の言葉にびっくりした澄江は、まじまじと彼女の顔を見つめた。 そして大きな瞳に涙を浮かべ、かけていたヒスイの十字架を外し「これ、持って行…