終戦も間近な昭和20年7月の事です。
平家の落人伝説もある、人里離れた山間の集落に、水兵服を着た兵隊が14,5名、一人の隊長と共にやってきました。兵隊は海軍予科練の若者達で、目的は松根油を採取するためです。
松根油とは松の根から出るヤニを精製して出来るオイルの事です。
兵隊は近くの3軒の民家に分宿し、食事は自分たちで自炊していました。
畑の中に建造物が出来、村の男たちが集められました。
男たち、と言っても働き手は、皆戦争に駆り出され、残っているのは、老人と子供ばかりです。
隊長から、伐採後の松の木の根を大量に集める事を申し渡されました。
突然やって来て、有無を言わさない命令ですが、「お国のために」、という大義名分には何人も従わなければなりません。
老人たちは皆、一生懸命松の根掘りに励みました。
お国のために自分にもできる事がある、と言う事に誇らしささへ感じていました。
松の根は畑の中の作業場の中に集められ、小さく割られた根は巨大な釜に入れられたようです。
この後、複雑な工程と長い時間をかけないと松根油は得られません。
果たして液体として採取できたのかは不明です。
これらの作業には村人は入らず殆どの作業は兵隊が行っていました。
暑い真夏の炎天下に誰しも黙々と作業をしていましたが、8月15日がやってきました。
突然の終戦です、
いつものように老人たちは根を掘りに山に行ってきて帰ったら戦争が終わったと聞かされたのです。
村人の噂では、当日隊長の姿を見かけなかった、と言います。
戦争が終わったと同時に逃げたのではないかと言います。
予科練の若者達に復讐されるのが怖かったのでしょうか。
太平洋戦争末期の疲弊はこんな形でも残されていました。
飛行機の燃料を非常に効率の悪い方法で手作りして、それでも戦争を続けるとは、全く狂気の沙汰です。
二度とこんな事のない世の中でありますように。
松根油をネットで調べたら以下の文を見つけました、
太平洋戦争の末期、戦闘機用航空燃料の欠乏に直面していた日本軍は、一大国家プロジェクト「松根油緊急増産運動プロジェクト」として石油の代替燃料として全国に大量生産を要請していました(ネットより抜粋)