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道路に出て手を上げたトーマスは、すぐ北から来るハイウエイ・パトロールの車を認めた。
濡れて泥だらけの彼を見ると、パトロールの車は中央分離帯の芝生を横切り、Uターンしてトーマスの側で止まった。
パトロールが呼んだ二人の救援隊員をトーマスも手伝い、車を正常な位置に戻した後、ドアを開けて彼らが運び出した女は、そっと草の上にねかされた。
ほっそりと背の高い女である。ベージュのレインコートの前がはだけ、黒いワンピースの細いウエストが見えた。それはトーマスが両手で握り締めることができるように細かった。
濡れた黒髪がへばりついた、蒼白い、磁器のような肌にトーマスは目を奪われた。
「日本のパスポートを持っているが、知ってる人か?」
パスポートを見ながら、黒人のパトロールが聞いた。
「ノー!知らん」
ぶっきらぼうにトーマスは答えた。
トーマスは、パトロールをしながら、たまに農場の入り口で彼を相手にランチを食べるパトロールの顔を殆ど知っていたが、この男には会ったことが無かった。
母親が日本人であることを知っているのだろうかと、トーマスは不審に思った。
必要な時は君に連絡する。確か電話番号はひかえたはずだ。オーケー?」
パトロールはトーマスの背に呼びかけた。
トーマスが農場に帰って来た時、無残な痕跡をあちこちに残して、嵐は過ぎ去っていた。
乱れ飛ぶ雲の合間を狙って太陽が時々細い光線を放ち、濡れた地上の一角を眩しく照らし出す。
義弟のデーヴィドは、アルバイトのサイモンと嵐で崩れた小道を修理していた。豪雨が小石や砂利を押し流し、小道はぬかるみと化していた。