Mrs Reikoの短編小説「ジョージアの嵐」

3

彼がようやくゲートを閉め、チエーンで二枚の扉を繋いだ時、ドライブウェイの向こうに白いトラックが目に入った。

 「クソッ」と、口に出して、またゲートを開くのに苦労し始めた。

 八の字に開かれたゲートをエーモスが押さえている中、父親のヘンリィ クレイトンは一言も息子に言葉もかけず、白髪の頭を真っ直ぐ前に向けて車を乗り入れた。

 彼はデコボコの泥道に車を進め、放し飼いされている孔雀が羽を広げ、数多のチキンやアヒルが喧しく跳びのき、トラックを耳さとく聞きつけた十匹ほどの猟犬が激しく吼える中、低い丘上の広場に車を止めた。

 後を追ってトーマスが広場で車を降り立つと、大きなたらいの中の犬の餌をまぜながら、ヘンリィは目も上げずに言った。

 「ママに電話しろ。」「何の用だろう?」答えは無かった。

トーマスはヘンリィのトラックの荷台からアルミのランチボックスを掴むと、近くの古ぼけたトレイラー ハウスに向った。

六ヶ月程前父親と大喧嘩して家を飛び出して以来、彼はそこに寝泊りしていた。

トレイラーの中の、鉄製ベッドのむき出しのマットレスに座った彼は母親の作ったランチボックスを開けた。

フライチキンを貪りながら、片手で母親に電話をした。

彼の無精ひげに冷えたグレービィが固まりになって絡みついた。

「俺だ」

Grass()ができたんだって。」

「草?  ああ、glasses(眼鏡)か」

日本人の母親の発音の誤りに馴れた彼は、片方をゴム輪で耳にかけた眼鏡を鼻の上方に

押し上げた。

「そう、眼鏡」

「オーケー、後で取ってくる。何かほかには?」

 「ええ、何も。 ただ、あんた、日本人たちに農場を見せてやれない? 

野球場を下見に来た人たちの中に、アメリカの農場がどんなものか、見たいと言う人がいるのよ。都会の人は農場に憧れているのよ。」

「そんな時間があるもんか!」彼は電話を置く前に叫んだ。

 一様にダークのスーツを着込んだ日本人の男たちを思い浮かべ、俺に彼らを案内する時間があるもんか、今更俺を日本人のことに引きずり込むな!彼は電話を切ってから心中叫んだ。