Mrs Reikoの長編小説      戦争花嫁           

                                       青春  8

 

 昼夜顔を合わすオハラとは最も親しくなり、冗談を言い合う間柄になった。

オハラは年下の耀子を揶揄したり、ワザと苛める振りをしたりした。

彼女が小学校時代水泳の選手だった、と言うと、彼は沖の小船まで競泳しよう、と言い出し、悠悠と勝ち抜いて、悔しがる彼女をいつまでもからかった。

ある日、オハラが、ユーの脚はこうだ、と2本の指を曲げて立てて見せた。

基地に来た時から、アメリカ女のきれいな脚を見て、床に脚を折り曲げて坐る不恰好な当時の日本人特有の脚を始めて自分に見出した耀子は、ずっと引け目を感じていた。

不躾ではあるが本当のことだから仕方がない、と彼女は笑ってすませたが、胸がサッと冷えるのを感じた。

その数日後、耀子が砂上に置かれた廃船の蔭に坐っているオハラの側に立って話をしていると、彼はニヤニヤ笑いながら彼女を見上げて、ユーの毛が見える、と言った。ショーツ風な水着のパンツは彼女の腿にピッタリすることなく、隙間が開いていたのだ。

紳士ならそんな事は黙っているものをと、ムッとした彼女はそこを離れて、20メートルほど先の、最前から度々彼女の方を盗み見ていたトーマスの側に行って坐り、雑談を交わし始めた。

暫くすると、オハラがやってきて、さっきナイフをここに落したようだが、見なかったか、と真面目な顔で耀子に聞いた。

彼の下心が解っていた耀子は、見なかった、と言い、横を向いて笑った。

ナイフは、その頃珍しいスイス ナイフで、スプーンやねじ廻しの七つ道具のついた、オハラ自慢のものであった。

それから1週間ほど、彼女はオハラに冷たい態度を取ったが、毎日会う彼の人懐っこさに負けて、またいつも一緒にいるようになった。

仕事が終わってジープが迎えに来るまで、オハラはいつも耀子と一緒にいた。

同僚の美紀は彼女なりに、広い館内のどこかでボーイフレンドとの交際を楽しんでいた。

やがて、ジープの運転手のジムが耀子に注目し始め、帰途の暗い野原に車を止めると、美紀を車に置き去りにして耀子を連れ出し、激しくキスを求めるようになった。

耀子は美紀の思惑も考えず、容姿の良いジムと束の間の悪戯を楽しんだ。

美紀が仕事を休んだある夜、いつも一緒だったオハラが、ジープが迎えに来る前、ちょっと機械体操をしてくる、と言ってオフィスに耀子を置き去りにして出て行った。

一人になった耀子は、オハラに見捨てられたような思いで淋しく、ひとりでに出た涙を拭っていると、オハラの友達のデブレッジが入って来て、なにを泣いているんだ、と聞いた。人の良い小肥りの彼に、ボーイフレンドが行ってしまったからか、と優しく聞かれ、耀子はコックリ頷いた。

すぐ出て行ったデブレッジに言われたものと見え、オハラが入って来た。

彼は、耀子に近寄ると、彼女の肩を抱いて立たせ、強く抱きしめた。

泣きじゃくっていた耀子は、嬉しさと、恥ずかしさで、オハラの胸に顔をうづめた。

 それ以来、耀子とオハラは喧嘩もせず、公認の恋人同士となった。

彼は耀子を“ハニー”と呼び、自分の名はアンドリューだが、アンデイと呼べばいい、と言った。