Mrs Reikoの長編小説      戦争花嫁           

                                 青春  9

彼は、ポプコーンだのハンバーガーだのを毎晩のようにPXから買って来て、自分も食べ、耀子にも食べさせた。

甘いものの好きな彼は、たまにキャンデー バーを箱ごと買って来て耀子に持たせたりもしたので、それまで痩せていた耀子は急に肉付きが良く、女らしくなった。

知り合ってから半年余りのある日、アンデイは映画館の裏に耀子を連れて行って、誇らし気にピカピカ光るブルーの車を見せた。1948年型のシヴォレーで、真新しかった。

目を丸くしている彼女にアンデイは、友達と共同で買ったのだ、と説明した。

その頃車を持っている兵隊は少なく、特にシングルの一兵卒が車を持つことは珍しかった。

買うにしても、1月も2月も前から本国に注文して送ってもらわなければならなかったが、彼はそれまで車のことは一言も言わなかった。

その日、彼の運転を不安がる耀子を、アンデイは笑いながら寮まで送って行った。

以来、彼女の送り迎えは彼がするようになった。

いつも瑤子が車から降りる時、彼女の頬にキスをしていたオハラが、ある日、頬から序々に唇を移して口に押し付けた。

ジムやトーマスのような激しいキスでなく、穏やかな、初々しいとまで言えるキスであった。

予期しなかったことではなかったが、瑤子の胸は高鳴った。そして嫌ではなかった。

後も見ずに車から降り寮に駆け入った。

オハラの車中の愛撫は日に日に濃厚になっていった。

少しずつオハラの愛撫に慣れていった瑤子は、彼が抱き寄せると自分も力いっぱい抱き返すようになった。

車中のぺッテイングが二、三週間続いた後、七月の満月の夜、ドライヴに行こう、とオハラは山あいの谷間に向かって車を走らせた。

少しでも長く彼といたい瑤子は黙って彼に身を寄せた。

彼は片手で運転しながら、片手できつく彼女を抱き、時々器用に前方に目をやりながらキスを続けた。

郭公の鳴き声と小川のせせらぎが静かに響く草も木も金色に輝く野辺に降り立った二人は、柔らかな草の上に腰を下ろした。

二言三言話し合った後、ごく自然に抱擁が始まり、抱きしめた。

瑤子は恐れと期待に身を震わせながら、彼を受け入れた。