Mrs Reikoの日本旅行記「母と息子のセンチメンタルジャーニー」

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家を修繕しようという話が息子夫婦の間で持ち上がった。家といっても私が住むそれは、トレーラーハウスを二つ併せた、いわゆるダブルトレーラーだ。

次男の家の目の前に、それこそ、スープの冷めない距離に控えたその「家」は、床はぎしぎし、あちこち雨漏りはする、ジャスミンのつるが屋根の隙間から忍び込んで、1メートル近くになり、「屋内ガーデンだ」と言って、花が咲いたら、「自然屋内香料」だと、笑っていた家だ。

その他にも、天井を走る鼠たち、夥しいアリと、沢山の蜘蛛が紡ぐ糸が内外に張り巡らされている家は、一見魔女の住処に見える。

そんな家でも、一人で住むには充分だと思っていたが、おりしも虫の嫌いな嫁さんが訪ねて来た時、蟻や蜘蛛と遭遇してから一気に話は具体化していった。

体のあちこちが年相応に後退している私は、むやみと人を恐れるようになっている。それは年齢や体の衰えばかりでなく、アメリカという国に住むということが、大きく関係している。

始終見ているテレビは犯罪のニュースで満ちている。それも統計的に被害者は殆どが弱者、年寄り、女、子供、だ。特に年寄りは金を持っていると思われ、狙われる。人種的マイノリテイ、しかも老女の私は、一番ターゲットになりやすい。

加害者の殆どは、知り合ったばかりの、配達夫、介護人、修繕職人、等だ。

その為、私はいつも誰かが修繕に来るなどと聞くと、出来るだけ目立たぬよう、身を隠す。

家の修繕の期間は息子夫婦の家に身を寄せて居るように、と息子は簡単に言う。

夫婦が昼間勤めに出た後、一日中大工や職人と顔を合わせていなくてはならぬと、聞いただけでも身が縮む。

なになに?その上、彼らにトイレを使わせるため、ドアーの錠を外しておいてくれ、だと? 男だろう、大人だろう、なぜ朝のトイレは家で済ませて、他は野原で済ませられないのだ。この野中の一軒家、息子の家と二軒だが。

後は見渡す限りの山と野原に囲まれている。

思っただけでもストレスだ。ストレスは死因の第一因だ。

思えばこの八十八年、ストレスからいつも逃げだす術を心得ていたために、波乱万丈の世界を生き延びてきたようなものだ。その体験を生かして、今回のストレスからも逃げ出そう。

まず考えたことは、近くのホテルでの長期滞在だ。

しかし、昔は気安く泊まったホテルも今は誰かが一緒に泊まってくれなければ一人では出来ない。そんな暇人は今の世の中では多分私一人だ。それで考えた。そうだ!どうせ泊まるのなら日本に行こう!日本なら未だアメリカの半値で泊まれるホテルが一杯ある。

誰と?日本ブームで行きたい人は沢山いる。だが、学生は休暇中ではない。友達は皆先に逝ってしまい居ない。それで思い出したのが長男のトムだ。彼は67歳で最近リタイア―したばかりだ。

私の電話に二つ返事で承諾した彼と、一応2週間の予定で出発することにした。

こういうことには気の利く次男のジムが早速全日空の格安航空券を予約してくれる。

何のことは無い。それは流行し始めたコロナウイルスで落ちた売上げの対処法であったのだが、まだアメリカではさほど取り立てて報道されてなかったので、私は次男の相変わらずバーゲン ハントの巧みさに感心し感謝したのだ。半値の航空代で私たち二人がロスアンゼルスを発ったのは、当市のホテルに一泊した翌くる日の2月22日であった。

当然ながら機内は空いている。真ん中の3席を占領してゆうゆう横になることが出来た。      続く