母と息子のセンチメンタルジャーニー

話をしながら彼一人が仕切るレストランの仕事はゆっく

り進む。その間、若いグループが一組入って来て、ますます仕事の量が増える。

丁度その時、店員らしき若い女性が入って来て、私たちの方が、ホッと、安堵の一息をつく。お互いの身の上話もほぼ終わり、私たちはタクシーを拾いに外にでる。

一応トムが予約したホテルに向かう。チェックインにはちょっと早すぎたので、荷物を預かってもらい、運転手に頼んで、タクシーで島巡りをしようとしたら、運転手が北回りか、南回りかと聞く。

“一日で全島見られないの?”と聞くと、彼は笑って、奄美大島は一日で見て回れるよう小島ではないと、ちょっと気分を害したような調子で言う。

北半島は原始的で、未だに草木が多いが、南半島は都会化していると言うので、南半島を回ってもらうことに決める。

宇月貝塚史跡跡公園という所に連れて行かれた。小高い丘を今も堀続けているようで、掘り返した穴に入って中を覗いてみる。確か女の骸骨も見つかったとあった。私は考古学にあまり知識が無いので、良い加減で切り上げる。

海辺の小山に連れて行かれた時は、灯台までトムが小山のてっぺんまで登って見て来る間、下の、ちょっとした公園のベンチに座って待つ。その間、そこらの地面に生えている草の種類に興味を持った。内地とはまた違う雑草が生えていて、その中でも、低い、「仏の座」のような草は、瑞々しくて美味しそうだ。トムと一緒に帰って来た運転手に、”これ食べられるの?’と聞いたら、ダメだと言われた。でも美味しそう。

昼時になったので、とあるレストランに入った。戸口に「伊勢えび」と書いてあるので、伊勢エビを食べようと、入り、席に着くなり、伊勢えびを下さいと、頼んだ。どれほどの大きさが良いかと、聞かれて、大食いも居ることだし、一番大きいの、と言うと、女は笑って一番大きいのは2万円もしますよと、言った。

驚いて、一体どんなもんなのと聞くと、女は手招きで外の水槽に私たちを連れて行った。

いる、いる。大小の伊勢海老が魚やタコの間を動き回っている。好きなのを取ってと言われてトムが網を操って捕獲したのは、結局一番大きなヤツのようであった。

大サイズのため、茹でるのに相当時間がかかったそれは、皿からはみ出すほど大きくて、周りの客はみな目を見張って驚いたり、笑ったりしていた。

伊勢海老は、蟹のように美味しく感じられなかったので、私はすぐ食べるのを止めたが、トムは最後の足の一本まで、割り割いてしゃぶっていた。

結局、2万いくらの金を払って出てきた私たちは、同じタクシーに乗り込んだ。他の食堂で昼飯を食べていた運転手が来てハンドルを握る。

それから奄美大島名物の焼酎醸造所に連れて行かれた。工場を一覧した後、味見場所に連れて行かれる。トムが熱心に味見した後、「高倉」と言う銘柄に決めて購入する。720ミリリットル、1千6百95円だ。この焼酎は大変口当たりが良くて、焼酎が初めての私も気に入り、道中、まず一杯、と言う時にちょくちょく口にして、大変慰められた。機会があったら又買いたいくらいだ。

昨日下船の際、直ぐ次の船の予約を取ろうとした私に、窓口のオヤジはつっけんどんに、“となりの窓口!”と言って、指差さしたその窓口は開いて無かったので、予約を取り損ねた私は気になっていた。

これから沖縄行の船の予約を取らねばならぬ、と言うと運転手が’それならその船会社の支店に連れて行ってやると、連れて行かれたのは、貧弱な船着き場の窓口でなく、

立派な支店の建物の中にある、礼儀正しい社員が応対する所であった。そこで、一等より良いのは無いのかと聞くと、あるという。特等室だ。なるほど。昔の一等室が特等室に格上げされたのか。

 沖縄までの特等室の予約をして、ホテルに向かう。奄美タンカンと言うミカンとオレンジの合いの子のような柑橘を買って食べる。甘くてなかなか美味い。 続く