母と息子のセンチメンタルジャーニー

 ある日は、タクシーを雇って、一日島巡りすることにした。

年配の運転手があちこち連れて行ってくれる。沖縄の明治村みたいなところでは、昭和の時代に私たちが見たような沖縄の生活が再現されているのが懐かしかった。

最後に、那覇のデパートに行って、買い物ついでにトイレも使いたいというと、彼はトイレなら自分の家のを使えと、水釜にある家に連れて行ってくれた。

なかなか立派な家で、そこに息子夫婦と孫達と暮らしているとのことだ。

彼の部屋だという所は子供の道具が所狭しと、置かれてある。奥さんは亡くなっているとのことで、彼も相当な年金を貰いながら、暇つぶしにタクシーを運転しているようだ。

買い物もあるので、那覇のデパートに連れて行ってくれと頼むと、どうやらデパートには行きたがらない様子なので、では、そこらのステーキハウスに連れて行ってくれと、と頼み、那覇の近くのステーキハウスで降ろしてもらう。

赤肉は食べないと一頃言っていたトムは、どうした趣旨替えか、イヤに肉を食べたがる。米軍のお蔭で、沖縄にはステーキハウスがあちこちにある。

値段はそう高くないが、出されたステーキは薄っぺらなもの、小さく切ってあるものなどで、血の滴るような分厚いステーキを食べ慣れているアメリカ人にとっては、ママゴトのようなものだ。

オリオンビールの中2本とテンダロイン ステーキとサイコロステーキとで、ご飯付きで全部で6930円だ。大阪の寿司が懐かしい。

どうして運転手がデパートに行きたがらないのか、思い当てた。

出口が沢山あるデパートなどに連れて行ったら、勘定を払わないで、トンずらされるのではないかと疑ったのであろう。勘定はその時殆ど2万円近くなっていた。

腹黒い者たちに慣れているタクシー運転手たちは、ボンヤリ純情なアメリカの田舎者より、よっぽど世慣れている。続く