ヤンキー老人ホーム体験記

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4人用のテーブルにいつも4人分テーブルセッテイング(ナイフやフォーク)が並べられているわけではない。3人いつも決まった席に着く私達のテーブルも時々一人分とか、二人分のセッテイングが欠けている時がある。その都度歩行が自由な私があちこち空いてる席のセッテイングをそのテーブルの人に断って持ってくる。

一人で座っているトムのテーブルにはいつもニ三人分余分なセッテイングが並んでいる。

最初のうちは「このセッティングを貰って行きます」と挨拶していたが、トムはウンともスンとも言わず私を無視する。

それである日、何も言わず持ってこようとすると、トムは黙って持って行くのか、みたいな事を言った。

それで私は「あなた喋りたくないみたいだったからその気持ちを尊重して何も言わなかったのよ」と言いおきセッティングを持ってきたが、それからは彼のテーブルには行かず他のテーブルに行く事にしていた。

その無愛想な男がである。やたらと喋って愛想が良い。ナンシィによると日本にも居た事がある彼とは話が合う筈との事だがあいにくこちらは、口も聞きたくない。

一応背が高く太り過ぎてもいない彼は自信満々だ。

遅れて来たシャーリーも戸惑ったような顔をして席に着くが渋顔を絶やさない。

丁度金曜日のためホームでは通例の魚のメニューだ。(金曜日に魚を食べるのはキリスト教徒の風習だ)

「もしかしてサシミが出るかも」と言ってサシミと言う日本語を知っている事をひけらかす。

やがて出された鱈のフライを見て「フライド・フィシュにマッシュポテトか、これじゃ太るものばかりだナ」

男のくせに食べ物の事をとやかく言う。嫌なヤツだ。

メアリーから彼の噂を聞いた事がある。

ナンシィと“いい仲”だそうだ。朝や夜,私達が出て来ない時はいつもナンシィはトムの向かい側に座って親し気に話しをしているそうだ。

トムは私と同じ83歳、10ほど若いが、72歳の太っちょのナンシィはオムツを使いウオーカーで歩く、

「考えられない」と、私は笑いを抑えるのに困った。ところがメアリーは「ホームではそんな事普通ですよ」と真顔で言う。

みんな枯淡な老人ばかりで惚れたハれたの面倒くさいことからはとうに卒業していると思った私はまたもや世間知らずを知らされる。

さすがに古株だけあってメアリーは過去の事を色々知っている。

「気を付けなさい」と彼女が言う。彼にはあまり金が無いので、金を持っていそうな女に近づくのだと言う。  続く