ヤンキー老人ホーム体験記

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何日かして、私達のテーブルに祖国が私と同じ日本というメアリーがやってくるようになった。

最近大病をして退院して、まだ6カ月だと言う彼女のお腹には大きな手術跡がある。

良く解らないが腸の手術をしたらしい。

病気が発見される大分前から具合の悪かった彼女は始終海軍病院に出入りしていて医者の首を傾げさせていた。

軍の病院ではかかりつけの医者と言うのはなく、丁度その時居合わせた医者が診るのであるが、その中の一人がエイズと診断した。

それで当分エイズの過酷な“治療”に通っていたが、ある時、又別な医者があんたの病気はエイズで有る筈がない、と言って又色々な検査が始まった.

そういうゴタゴタの後、腸の手術を受け2ヶ月近くも入院した後、あるnursing home

(療養所)へ退院してきた。

4人部屋のそのホームはここの3倍も料金を取るのに、非常に待遇が悪く、同室の人の嫌がらせ、使用人の怠慢等々に悲鳴をあげた彼女は娘さん夫婦に連れられて、入院中留守にしていたこのホームに帰って来た、とのことである。

彼女は近所に家を持ち、17歳の孫息子に遺産として譲ったが、いまだに時々市バスに乗って家を点検に行く

家があるのに、どうしてホームに移ったの?と聞いたら、運転が出来なくなったし、転びやすくなったから、との答えであった。

入院中ハンドバックと共に軍のIDカードを盗まれた彼女は大変な苦労をして再発行して貰ったそうだ。

本人が出向かなければ再発行して貰えないので、混んだオフィスで長時間待つことは手術後の老女にとって大変な事なのだ。

娘さんでなく、孫息子に家を譲ったのは、退院時に、昔から気が強い娘さんとの間が険悪になったからであると言う。

図書館司書の娘さんと、Border patrol(国境警備員)の婿さんだけが頼りの彼女は銀行、クレジットカード関係の事柄を彼らに託していた。

ところが、いざ、退院してくると、色々不審な金やクレジットカードの使い道が見えてきた。

娘さんに質問すると短気な彼女は喧嘩腰で怒鳴る。

それで娘さんとの仲が険悪になり、今は婿さんが世話をしてくれる。

しかし仕事で忙しい婿さんは彼女が携帯に電話する度、今仕事中だから、と、滅多に話を聴いてくれないそうだ。  続く