Mrs Reikoの短編小説「ジョージアの嵐」

16

トーマスは、歩いて来るホッソリした姿が、事故の女だと解った。

彼女の腕は明るい赤い布で吊られていたが、歩き方はしっかりしていた。

由美子はあたりの景色をうっとりと眺め、何もかもに深い興味を覚えるようであった。

 ジーンズにゆったりした白いティシャツ姿の彼女のシルエットが朝日に浮き出ていた。

時々彼女は立ち止まり、頬にまつわる髪の毛を手で払いのけながら、周囲の巨木を驚異の目で見上げた。

  事故から2週間ほどたっていたが、トーマスは彼女が退院したことを知っていた。 

キクが由美子の怪我は簡単な骨折で、今はホテルで休養していると、言っていたのだ。

 どうして良いか解らず、トーマスはそこに立って彼女を凝視した。

 「ハロー!」

 近寄って来た由美子が深いえくぼを口の端に浮かべ、微笑した。

 「ゲートの隙間から入って来たの、いいかしら?」

 「ええ、まあ、」この次からゲートをよく閉めておこうと、思いながらトーマスが口ごもった。

 「あなたにお礼が言いたかったの。キクはあなたのお母さんだったのね。

もしあなたに会いたかったら、行ってもいいだろうと、言ってくれたの。それに農場も見たかったの .私、東京で生まれて育ったので、田舎の生活をあまり知らないの。ここはとてもきれいで静かね。」

「そうかな?」

 トーマスは豚が穿った後のむき出しの赤土や、動物用の緑色によどんだ小池を見廻した、

 「腕の具合はどう?」

 「ああ、もう殆ど痛まないの。医者はギブスが2週間ほどで取れるはずだと、言っていたわ。」 彼女はスカーフを撫でた。

 「それは良かった。」

ほっそりした、彼女にジーンズと白いティシャツが良く似合っていた。

 心持下がった、濃い茶色の眼は長い睫毛に囲まれ、笑うと茶目っ気な雰囲気をかもしだした。唇は小さいながら厚かった。

 透き通るような肌の彼女を美しいと思った。

そのように若い日本人の女の側近くに立つことは、彼にとって初めての経験であった。