ヤンキー老人ホーム体験記

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生来の気性か、それとも心細い彼女の境遇からか、彼女は人に物をくれたがる。

私とつき合い始めてから、直ぐ、日本の店に行ってきたからと、大きなリンゴを二つ持って来てくれた。

それから暫くしてスーパーに行った私が、そこで作られている、出来立てのフライ・チキンを彼女におすそ分けしたら、早速あくる日、自作のメキシカン・サルサを持ってきた。

人から物を貰うと直ぐお返しをする人は日本人に多い、

お返しが気の毒なので、彼女には物を上げるのを差し控えるようになった。

見ていると彼女はホームの使用人にも、なんだかんだと物をあげている。

私から見ると彼等の関心を金で買っているように思える。

彼女の隣室に住むマネージャーのドアのノブに果物の入った買い物袋をぶら下げているのを見た事もあった。

部屋を掃除に来るメイドには毎回キャンディとか、コーラを振る舞うと聞いて「それはやり過ぎじゃない?」と言ったが彼女は止めない。

ある日メイドの仕事ぶりが気に入らないと言って何もやらなかったら、「I like coca cola」と言ったそうだ。

それでも何もやらなかったら、掃除がますます、ずさんになってその上毎週一つづつ置いていくトイレットペーパーも置いていかなくなった、と言う。

彼女はマネージャーに「彼女をクビにしたら?」と言ったそうだ。マネージャーは「今は出来ない」と言ったそうである。

彼女が塩鮭を焼く電気器具を買った時、煙を気にして、キチンで働くウエイトレスの一人にそれを使って焼いて貰った。

そのお礼にと、彼女が7月生まれ、と聞いて、誕生石のルビーをPXから50ドルで買ってきてプレゼントしたそうだ。

暫くして、「気に入った?」と聞くと彼女は「うーん まあね」と気のない返事をしたそうだ。

「何が気に入らなかったの?」と聞くと「もっと大きなのが良かった」と答えたそうだ。

私は 開いた口が塞がらない。

それでも彼女の呉れたがりは治らない。

それでいて彼女は「私はボケてきたのか、みんながバカにするような気がする」とぼやく。

物をやたらに呉れると返ってバカにされ、もっと、もっと、とせまられるのは当たり前だ。

義理人情を気にせぬこの国では尚更の事だ。  続く