5
風は巨大な樫の木を草の葉のようになびかせ、恐ろしい音をたてて窓を揺すった。
竜巻の警告をひっきり無しに映し出していたテレビのスクリーンは、二度ほど消えてまた点いた。
「テレビを消した方がいい」
画面をうつつに見ながら外の轟音に聞き入っている母親に、トーマスは呼びかけた。
台風を避けて、農場には帰らず実家の居間でランチを食べていたトーマスは
食事の後、リクライナーにどっかと座った。
オーヴァーオールの穴から膝が覗き、汚いソックスが臑からだらりと下がったその姿を、キクは黙って眺めた。
「あッ、ガ―べジ・キャン!」
ドラム缶ほど大きな、2個のゴミの缶が互いを追い回すように庭で転がっているのを見て、キクが叫んだ。
「とってきてよ」
「冗談だろう?」
信じられぬように彼女を見て、トーマスが言った。「俺はバカじゃないんだ。この風の中、誰が出て行くもんか」
「放っておけよ。そして窓から離れろ。何かがガラスを破って飛んで来るかもしれない」
椅子に長々と伸びたエーモスは目を閉じた。満腹感が眠気をもたらしていた。
肩をこずかれ、エーモスは跳び上がった。
「農場は大丈夫なのか?」
気難しい声が彼の耳を襲った。二階で昼寝をしていた父親のヘンリィが嵐に目を覚まされ階下に下りて来たのだ。
トーマスはヨロヨロ立ち上がり、ゴム長を履き始めた。
「長靴は外で脱いで入れと、言っただろう」
ヘンリイは、彼の足をねめつけた。
彼は、清潔には神経質であった。
トーマスに靴を外で脱ぐよう、昔やかましく言ったキクは、とっくに諦めていた。