母と息子のセンチメンタルジャーニー

四万十川の川口の駅を車掌に聞いたら、中村という駅で私鉄に乗り換え、窪川という所で降りなければならない、と言う。

中村に着いた。二人分の切符、3千60円を払って、窪川まで行く。そこからトムが予約した安住亭というホテルにタクシーで行く。日本式のホテルで、通された部屋は八畳じき位の畳部屋だ。窓からは四万十川(たぶん)が、見え、見晴らしは良い部屋だ。

トムは大喜びで早速浴衣に着かえて温泉の大浴場に向かう。

温泉も滑って転ぶのが、怖くて一人で入れない私は手持無沙汰に窓枠に座って、景色を眺める。腰が痛くなって、下に降りて畳に座るが、どうも居心地が悪い。

もう私は家にある座り心地快適なリクライナー以外には座れない体のようだ。

トムが手拭いを下げて入って来た。温泉は最高だったとのこと、まあ付添人が満足してくれれば私もそれで満足だ。

もう夕食の支度ができていると、下で言われたと、彼が私の手を取って導く。

食堂は椅子とテーブルだ。有難い。目の前にはもう色々のご馳走が並んで、小さなコンロに鍋がかけてある。テーブルは10台ほどあるが、座っているのは年配の夫婦と私たちだけだ。

小柄な青年が入って来てコンロに火を付けて次々と料理を運んでくれる。

なかなか愛想の良い青年だ。名物のカツオのたたきも食べて堪能した私は、またもや千円出して、彼に握らせようとしたが、彼は固く辞退して受け取らない。是非にと言うなら売店で何か買ってくださいと、言う。先刻見たとき、あまり目ぼしいものは無いなと思った売店で物色するが、やはり買いたいものはない。あちこちに飾ってある陶器や置物は売り物ではないという。仕方がないので、何とか煎餅という亀の子煎餅のような、非常に薄く、小さなものを包み紙で御大層に包んだもの10個ばかりはいった袋を取り上げる。

ホテルの主人に四万十川上りのことを聞くと、ブラタモリの時は特別に船を出したが、普段はそこらを30分ほど走る遊覧船はあるが、川上まで見物したり、釣りをさせながら上る船は無いとのこと。”なにしろ200キロはありますから、“との言葉で、川上りは諦めた。

翌日、例の食堂で朝食を食べてから、(客は前夜の夫婦ものだけ)主人に、駅までタクシーを頼んだ。

”どちらまでいらっしゃいますか?”の問いに鹿児島まで、と簡単に答えて、部屋で旅の支度をする。

降りるとタクシーはもう来ているとのこと、急いで、勘定(3万2千30円)を済ますと、外に出る。

タクシーは狭い街中の路をフルスピードで走る。

私が“そんなに急がず、ゆっくり安全運転してくださいね、:と言うと運転手は、”次の新幹線下りに乗るんじゃないんですか?“と聞く。

新幹線に乗ることは乗るけど、別に急いで次のに乗ることも無い、と言うと、“なーんだ、ホテルの人が次の新幹線で鹿児島に行かれるのだから、急いで、と言われたんですよ。自分はまだ経験が浅いから大汗書きましたと、言ってスピードを緩める。アブナイとこだった。

こんな所で事故にあう訳にはいかない。

待つこともなく来た新幹線に乗って鹿児島まで行く。車内販売で、弁当とビールを買って、トムと乾杯する。

鹿児島に着いた。「目利きの銀次」と言う駅前の食堂で昼食を取る。 続く