Mrs Reikoの長編小説      戦争花嫁           

                              青春   5

ある日、花子が風邪を引いて仕事を休んだ。

耀子は寮で一人寂しく寝ている彼女を思い、ハウスからなにか食べ物を持って行ってやろうと、思いたった。

その頃にはケチなワイフも、居残るメイドに晩飯の残り物を食べさせていた。

ちょうど美津子のベビーシットの番であったので、耀子は帰る前に冷蔵庫からパン等取り出して、サンドイッチを作り始めた。

その時、隣家のミセス ショルツと少し前出て行ったワイフが、キチンのドアからいきなり入って来た。

手を動かしていた耀子と、パン菓子を手に口をもぐもぐさせていた美津子は、凝然と立ち尽くした。

ワイフはじろりと耀子を見ると、“ヨーコ、ゴー ホーム!”ときつく言って立ち去った。

ようやく我れに返った耀子は、それでも食物を紙に包むと、それを持って、しおしおとドアを出た。

寮に帰って食物を花子に渡し、泣きながら一部始終を花子に話したが、花子にもどうする事も出来なかった。

翌朝、どうせクビになるだろうと、耀子はヘットリンガー家に行く気がせず、レーバー オフィスに行って、いっさいを話した。

レーバー オフィスの兵隊は、富田を通して耀子の話を聞いていたが、最後になにを思ったか、“追放になりたいか?” と聞いた。“追放”ということは、どこの米軍基地でも働けなくなることであった。

彼女は首を振って、”ノー!”と言った。

とにかく追放は免れて、耀子は別のハウスに送られた。

それ以来、1年の間に次々と4軒ほど下士官の家を回ったが、どこの家でも長続きせず、耀子はイヤになる度、顔見知りになった富田にねだって仕事場を変えてもらった。

彼女にはワイフたちの傲慢が我慢できなかった。

最後のハウスを辞めて寮でブラブラしていた時、富田が来て、映画館で働かないか、と誘った。

聞けば、富田もそこで切符を受け取るアルバイトをしていて、耀子の仕事は切符を売ることだ、と言う。

そこでは新規に日本人の女を二人採用することに決めたばかりだ、とのことであった。

メイドの仕事に飽き飽きしていた耀子は、すぐ承諾した。

耀子は母に金を渡すため、1ヶ月に一度ほど家に帰っていた。

映画館で働くことにした、と母に言うと、最初メイドになることを反対した彼女は、“だって、食事がでなきゃ、お金がかかるだろう?”と、また反対したので、耀子は唖然として母を見た。

耀子が給料を受け取った後、交通不便な家まで行くのをついグズグズしていると、母は小学生の妹を連れて、寮まで金を取りに来た。

寮の支配人の大田が、事務所からラウドスピーカーで、“”木村耀子さーん、お母様がいらしていますよー!”と、知らせた時は、白昼あまり人はいなかったとはいえ、なぜか耀子は恥ずかしくて、顔が赤らむのだった。