Mrs Reikoの長編小説  戦争花嫁                            

                              アメリカ上陸 2

 船は出港後二週間でようやくシアトルに入港した。

船のエンジンが止まった直後、船室を片付けに来たボーイが、“「アメリカにオレンジはいっぱいある」 と言いながらそこにあったオレンジを丸い窓からポイと捨てた。

夕闇のシアトルの港と町は、灯火がクリスマスツリーのように輝き、豊かさを象徴するかのようなその夜景に、瑤子は魅せられた。

やはりアメリカはなにもかも豪奢だ、と彼女は改めて感嘆した。

下船後、これから暫く日本食が食べられなくなるから、とアンディは、瑤子を港の付近の日本食堂に連れて行った。

食堂で注文したウドンは、数日前からの風邪ですっかり鼻を詰まらせていた瑤子には味が全く解らなかった。

翌日乗った、シカゴ行きの列車はまた瑤子に目を見張らせた。

アメリカ政府は凱旋兵士に最高の歓迎の意を表するらしく、無料で乗せてくれたその列車は、天井のガラス張りの展望車や、真っ白なテーブルクロスが目にしみる食堂車を、巨大なデイーゼル機関車が牽引していく。

シャワーつきの個室がオハラ一家の向こう四日間の居場所となった。

昼はソファーになる二台のベッドがテーブルを挟んで向かい合わせにあり、部屋の巾いっぱい、天井まで届くような大きな窓からは、次々と姿を変え、色を変えるロッキー山脈のパノラマが楽しめた。

本当に女優になったような気分で、瑤子は父の全盛時代、当たり前に思っていた豊かな気分を久しぶりに満喫した。

まだ民間では飛行機が一般化していなかったせいか、ほとんどの乗客は裕福そうな白人の中年男性で、女子供は皆無といってよかった。

彼らにとって日本人は珍しい存在で瑤子たちが食堂や展望車に現れると、必ず誰かが声をかけてきた。

アンディは彼らに家族を紹介し、黙って微笑む瑤子を傍らに雑談を交わした。

乗客とは対象的に、乗務員は全部黒人で、肌の黒さをいやが上にも引き立てる真っ白なユニフォームを着け、穏やかに折り目正しく立ち働いていた。

巨大な岩石を左右に見て走っていた列車は、やがて高原を走り抜き、多くの都会

や畑地を貫いて、予定通り四日目にシカゴに着いた。