Mrs Reikoの長編小説  戦争花嫁                            

                      アメリカ上陸 3

そこで乗り換えたリッチモンド、行きの列車で、また一晩過ごした瑤子たちは、ようやく中世の城のようなリッチモンド駅に到着した。

アンディの弟のテッドが迎えに来ていた。

六年離れていた間に三才上のアンディより背が高くなっていたテッドは、兄と抱擁して肩を叩き合い、瑤子とエミイに初対面のキスをした。

構内にある多数の洗面所や水飲み場に 白人専用、とか 有色人用、と書かれた札がかけられているのを見て、瑤子は戸惑った。

どの洗面所を使うのか、とアンディに聞くと、彼はこともなげに、白人用だ、と言った。

高館にはまだ黒人兵が来ていなかったので、人種問題は米兵と日本人の間の問題とばかり思っていた彼女には、あからさまに差別されている人種問題はショックであった。

ひとまずテッドの家に連れて行かれ、テッドより五才ほど年上のずんぐりした妻のジュンに紹介された後、瑤子は楽しそうに談笑する彼らを置いて、むずかるエミイをジュンに教えられたベッドルームに連れて行った。

エミイがようやく寝付いた後も、彼女は賑やかなリビングルームの仲間に加わる気になれず、ベッドの端に坐ってボンヤリしていた。

翌日テッド夫婦と車に乗り郊外の両親の家に向かった。

そこは意外に遠く、田舎の坂道を上ったり下りたりして二時間ほどかかった。

なだらかに起伏する丘に囲まれた広い芝生の二階家は、周囲に灯火も見えぬほど辺鄙な所にあった。

両親、兄夫婦、姉夫婦、弟夫婦に、それぞれの子供たち、それに高校生の妹のジョージアナ、という大人数に迎えられ、瑤子は圧倒された。

賑やかにキスや抱擁、握手が交換され、暫く話しが弾んだ後、一同は大きな七面鳥のローストが真ん中に置かれたテーブルについた。

感謝祭に食べる七面鳥は、その頃のアメリカでは滅多に出されぬご馳走であった。

その肉はパサパサしてあまりおいしくなかったが、瑤子には初めての七面鳥であった。

どういう扱いを受けるか、心細く思っていた彼女は一家の歓迎を受け、ようやく安堵した。