Mrs Reikoの長編小説  戦争花嫁                            

       苦難 カリフォルニア州 1

八月、アンディの任期が終わり、三十年を軍隊で過ごす、と結婚前から言っていた彼は、再志願をカリフォルニアですると、瑤子たちを連れに来た。

初めて乗ったカリフォルニア行きの飛行機はプロペラ式のもので、瑤子はこわごわ雲の切れ間から下を見て、亡父にその景色を見せたかった、と感慨に耽った。

一九五二年の夏のことであった。

モントレイ市近くのフォートオードで、一家は基地内の木造二階建ての、バラック兵舎を四つに仕切ったアパートの一階に入った。

上に二家族、下に二家族が住むそのアパートは、ベッドルームが三部屋あり、家具を持たぬ瑤子たちには広すぎるほどであった。

ソファー、テーブル、椅子などは軍で貸し出したが、台所用品は鍋一つから買わなければならなかった。

アンディは月給の一部を自分と姉の名前で毎月貯金をしていたが、帰って来てみると、それは一セントも残さず使われていた。

必要な時に使ってもよい、と言ってあったので、彼はなにも言えなかった。

その他、なにがしかの金を兵士預金に預けてあったが、それは除隊する時、彼だけが下ろせるようになっていたので無事であった。

車はどうしても必要だったので彼はその金を頭金にして、新しいウィリスを月賦で買った。

おかげでその後三年間、瑤子は家計のやり繰りに苦しめられた。

アンディは妊娠中の瑤子のためにと、自動洗濯機を、これもまた月賦で買った。

大きなお腹を抱えてバスタブで洗濯することは免れたが、毎月月末一週間ほどは

ジャガイモだけを食べる生活が続いた。

新聞でスーパーの広告のりんごやメロンの色刷り写真を見る度に、瑤子は唾を呑み込んだ。

血の出るような思いで買った洗濯機であったが、チョイチョイ遊びに来るようになった隣人に、世慣れぬ瑤子が何気なく、「いつでもお使いなさい」と言った途端、十歳位の女の子がいる彼女は、毎日のように洗濯物を持ってきて、まだ中に入っている瑤子の洗濯物を引き出してまで使うようになった。

やがて彼女は引っ越して行ったので瑤子はホッとしたが、もうウッカリしたことは

言うまい、と心に決めた。

アパートにはドライヤーがなく、外に張られた綱を四軒で使うことになっていたが、瑤子が少しでも長く洗濯物をかけたままにしていると、すぐ三軒のうちの誰かが取り外して、瑤子の裏口の階段に重ねておいてあるのを度々彼女は発見した。

それで、ほんの少し余裕ができた時、アンディは早速ドライヤーを買ってきた。

月賦で物を買う、という生活をしたことがなかった瑤子は、少しぐらい不便でも、金を貯めて現金で一つずつ物を揃える生活がしたかったが、父親が安月給でも月賦で物を一応買い揃えているのを見たアンディは、なんでもすぐ月賦で買いたがり、彼女のためとはいえ、いつもそのことが瑤子の心を曇らせた。

映画が大好きで、召集されるまでは勤めていたデューポンの工場の仕事以外の時間、

映画館で暮らしたのも同然、というアンディは、時間外手当が出るということもあり、またキャンプ内の五軒の映画館のマネージャーとして夜、昼、週末と働きだした。

瑤子は映画どころか、一人でチョコチョコ走りまわるエミイを、大きなお腹で追い回すことで、せい一杯であった。