苦難 カリフォルニア州 2
翌年の一月八日に長男のロバートが生まれた。
未熟な軍の医師の取り上げで、瑤子は酷い脱肛を起こした。
出産前に聞かれた時、赤ん坊には母乳を与えると、告げてあったので、数時間ごとに連れて来られるロバートに、坐って乳を与えなければならなかった。
坐るに耐えられず、つい横になって飲ませていると、看護婦がとんできて、「坐って飲ませろ」、と怒鳴った。
耐えられず、瑤子は泣きながらミルクに変えてくれ、と頼んだが、最初に母乳と言ったのだからダメ、とすげなく断られた。
回診にきた医者に痛みを訴えても、さも気の毒そうに瑤子を見るだけで、何もしてくれなかった。
生まれた赤子が憎らしくなるほどの、苦悶に満ちた入院生活の四日目にようやく退院した。
瑤子の局部を見たアンディは、「紫色に腫れ上がっているよ、」と言って、すぐ同じ病院の応急手当室に彼女を連れて行った。
彼女を診た医者は、「ちょっと押し戻して見る」と言って、ゴム手袋を穿き局部を押し込んだ。するとそれまで、いてもたってもいられなかったような疼痛が、ウソのようにピタリと止まった。
家にロバートを連れて帰ってからも、産後の瑤子は一日中動き回るエミイから目が離せなかった。
ある日、スクールバスの運転手だという男がエミイの手を引いて戸口に立ち、幼稚
園児たちに混じってバスに乗っていた、と言った。
三才にもならぬエミイを引き取りながら、瑤子は呆然とした。
アンディは相変わらず映画館で昼夜働き続けていたので、瑤子が家でなにもかもしなければならなかった。
一度、エミイが投げたボールが寝ているロバートの脳天に当たり、生後二ヶ月の赤子はギャッと泣き出した。
幸い傷も受けなかったようなので、瑤子は胸を撫で下ろしたが、エミイが眼を覚ましている間は一時も油断がならなかった。