Mrs Reikoの 長編小説   戦争花嫁                              

                 道ならぬ恋     ジョージア州 19

 頼子にはなんと言うの、と聞く彼女に、任せておけ、と彼は自信ありげだった。

実際、彼は、オハラの土地を自分も見たいから、と頼子に言ったのだ。

当日の朝、彼は瑤子と共に長距離バスに乗り込んだ

コロンブスからネープルス、フロリダまで五.六時間もあったであろうか。

彼はその間、持病の喘息に悩まされていたが、目的地までじっと耐えていた。

バスから降りてすぐ不動産屋の事務所を訪ねた。

不動産屋は六十歳くらいの男で、南部特有の品のある落ち着いた紳士であった。

彼に案内されてエヴァグレーズの水路端の土地を実際に目で見た二人は、どこか良さそうなモーテルを教えてくれ、と頼んだ。

不動産屋は瑤子の“後見人”グリーソンに、モーテルは一室で良いか、と聞いた。

「そうだ、」と平気な顔で答えた彼の顔を、瑤子は今更ながら呆れて見つめた。

「不動産屋の家に泊めてもらったことにしておこう」と言った彼は、さすがに経験豊かな“浮気者”であった。

瑤子はすでにアンディには、グリーソンも土地を見に行きたい、と言っている、と知らせてあったので、後はそう書けばよかった。

彼からは、土地が実在していたこと、そして、瑤子に“お供”がいたことは喜ばしいことだ、という手紙が来た。

そして、朝鮮の駐在は後一月で終わるが、引き続き沖縄に行くことになったので

家が見つかり次第、瑤子たちを迎えに行く、と書いてあった。

日本を出て以来、すでに十年余の歳月が過ぎていた瑤子にとって、日本にまた行ける、ということは嬉しいことであった。

別れが迫りつつあることが二人の情愛をいっそうこまやかにし、機会さえあれば必ず会っていた。

夜のミルク工場はガランとして誰もおらず、密会には最適な場所であった。

その清潔な、ミルクの匂いのする工場を、瑤子は何度訪れたことであろう。

彼は、ミルクの箱を運ぶトロッコに瑤子を乗せ、広い工場内を子供のように、ぐるぐる乗りまわしたりした。

沖縄に渡ったアンディから、家が見つかったので、休暇を取って家族を迎えに来る、という手紙が来た。