Mrs Reikoの 長編小説   戦争花嫁                       

                  狩猟    ジョージア州 14

 「ホラ、行くぞ」と舌を鳴らし、犬を連れて歩き出したグリーソンの後ろに、彼女は夢遊病者のように従った。

歩きながらグリーソンは、相変わらず冗談混じりに、スラグとバードショットの違いを説明したり、ウサギの頭を吹っ飛ばした“豪傑”をからかったりした。

そして十二ゲージのショットガンはウサギ猟には大きすぎるので、彼のように小さめな銃を買うことを勧めた。

その後又、二匹のウサギをグリーソンがしとめた後、空腹を抱えた彼らは帰途についた。

家に着いてから頼子に教わって、ウサギをフライにして初めて食べた瑤子は、その肉が意外に美味で、そしてまた、自分がしとめたウサギを平気で食べられる自分に驚いた。

狩猟をせぬ頼子は、夫が捕る獲物を料理はしても一切食べることは無かった。

「あんたのハズバンドとヨーコがイイ仲になっている、」という匿名の電話が留守中にあった、と頼子が笑いながら伝えた。

その電話は誰からのものか、瑤子は容易に想像できたが、肝心の頼子は、気にする風も無く、その後も普段と変わりない様子をしていた。

二、三日して演習から帰って来たアンディにウサギ狩りの話しをすると、「ホウー」、と聞いていたが、小さい銃を買おうか、と提案した。

瑤子は、「要らない」と言って譲らなかった。

彼女は銃を担いでグリーソンと野山を歩いている時、一度も泣き言を言わなかった。

男共と狩猟をする限り、メソメソして足手纏いになるくらいなら行かぬ方が良い、というのが彼女のひそかな持論であった。

そのためか、それまで感じられた、親切ながらも多少尊大な彼の態度が変わり、対等の人間として彼女を見る気配が伺われ始めた。

友達としての彼は実に面白い男であった。

野趣に富んだ彼の話しには、クソ、とか、メ犬のムスコ、とか、いわゆるカスワード(悪態言葉)が多く、まるで句読点のように小気味良くとび出すそれらは瑤子の耳をくすぐった。

女の彼女にはさすが真似することができぬだけに、彼のようにポンポン言えたら

どんなにさっぱりするだろう、と瑤子は思った。

犬を連れて野原を歩いている時も、彼はほとんど間断なしに話続け、段々猥談にも

話しが及んだ。

時々瑤子が、「それ、本当の話?」と聞き返すと、彼は真面目に手を上げ、神の真実だ、と誓った。

信心深い母親に育てられたグリーソンは、一応神を信じているらしく、散々彼の

ザンゲを聞いた瑤子にはそれが可笑しくて堪らなかった。

神を信じ、天国や地獄の存在を信じていながら、浮気を繰り返す彼が滑稽であり、また可愛くもあった。