Mrs Reikoの 長編小説   戦争花嫁                                   

                 帰郷  沖縄 4

沖縄の生活が半年ほど過ぎた後、船で知り合ったミスターレイに、あんたほど英語ができたら、Civil Service(国家公務員)の試験を受けると良い、と言われ、瑤子はまず最初に、那覇のタイプの学校に四ヶ月ほど通って資格を取り、すぐ、事務員兼タイピストの試験を受けて合格した。

ちょっとした英文法の試験には、昔百四十ドルで買った本が大いに役に立った。

合格はしても、それがどういうことかもよく解らなかった瑤子は、ある日、電話で那覇の米軍政府の渉外課に行くように、と言われた。

渉外課で面接をした、感じの良い長身のロンドン少佐は、瑤子をその場で採用した。

なにがなんだか解らぬまま、彼女は下働きの、GS―12、として渉外課で働くことになった。

車は一台しかなかったが、その頃水釜から移り住んでいた普天間のハウスから、瑤子がアンディを病院で下ろして那覇に行き、三時頃軍のバスで彼は帰宅し、瑤子が五時頃帰る、という日課で、三時にスクールバスで帰って来る二年生のポールを一人にする時間も短く、好都合であった。

米軍政府の渉外課という所は華やかなところであった。

沖縄行政府の建物の最上階を占める軍政府は、スタッフがほとんど陸軍将校か、国務省から派遣された高官で、始終そこで行われたミーテイングやパーティには高等弁務官と呼ばれた陸軍中将の最高司令官が出席した。

お蔭で瑤子やアンディもそのようなパーティに招かれることがあり、二人共慣れぬ華やかな社交に面食らった。

丁度その頃、“グリーンベレー”という映画を作る企画をしていた、ジョンウエィンが下見に沖縄に来て、軍政府に姿を現し、瑤子たち公務員は大騒ぎでサインを貰いに彼の回りに集まった。

映画は結局、ジョージアのフォートべ二ングで作られた、ということであった。

渉外課には、アメリ国務省から派遣された、F―4,とか、F―5とかいう肩書きを持った男性が三人いて、その他に、ロンドン少佐、日本男性の二世二人、アメリカ人のタイピスト三人、そして、沖縄県人の男一人と、女二人、という構成であった。

仕事に慣れない瑤子は、ほとんど古い書類の整理とか、公用車で書類を運ぶ役などをして、それでも結構重宝がられた。

国務省から来ていた課長のミスターブロンスは、瑤子の後々の就職に役立つであろうと、早速、Secret clearance (秘密書類扱い許可)の手続きをFBIから取ってくれたので、彼女は古い、“秘密”と赤いスタンプが押された、Doug,とだけサインされたマッカーサーからの書類なども見ることができた。

そんな書類を整理しながら何気なく読んでいると、彼女の上役のアリスが来て、読まなくても良いからただ整理しろ、と注意した。

ある日、書き損じた封筒をもう一枚貰いに監査部に行くと、そこの部長の、前から瑤子に好意的だったホーキンス少佐が彼女に近寄り、抱きかかえるようにしたので、彼女は驚いてとびのいた。

その頃人気のあった“007”のショーンコメリーのような、若くてハンサムな少佐は、その後もなにかにつけて瑤子に体をすり寄せてきた。

彼女がデスクで仕事をしていると、用事で入って来た少佐は彼女のそばに来て屈みこみ、手を彼女の手のすぐそばにおいて、用ありげに囁くのであった。

素敵な少佐に心惹かれぬでもなかった瑤子は、その手に自分の手を重ねたい誘惑に駆られたが、もうアンディを悲しませるようなことは二度とするまい、と決心していた彼女は誘惑に耐えた。