アンディの故郷 ヴァージニア州 4
父親をどうするか、でアンディ兄弟が兄の家に集まって会議を開いた。
長く父親を預かっていたテッド夫婦は、そろそろ誰かに代ってもらいたがっていた。
姉のルーシイは、ホームの母親の世話で手一杯で父親の世話まで見きれない、と言う。
アンディの提案で、父親をめいめい二ヶ月ずつ交代で預かることになった。
まず、最初に、ハウストレーラーに住んでいた兄のジョン夫婦が彼を預かることになった。
ところが、彼の肥ったワイフが一ヶ月もたたぬうちに悲鳴を上げ、父親は瑤子たちの狭い家に迎えられた。
背の高い骸骨のように痩せた父親は、乾癬に罹っていて、一日中座っている身の暇にまかせて、そのカサブタのような乾いた皮膚を掻きむしることをやめなかった。
粉雪のようにカサブタが散る彼のイスの周りを、さすがに無頓着な瑤子も毎日掃除機をかけずにはいられず、彼の洗濯物も別にして洗った。
父親は、医者が出すコールタールのような薬を、俺はコールタールと羽毛でお仕置きを受けるようなことはしていない、と言って使おうとしなかった。
コールタールを全身に塗って羽毛で覆うことは、昔アメリカで行われたリンチの方法であった。
彼は入れ歯を二組持っていたが、いずれも良く合わず、始終苦情を言っていた
噛み易いようにと瑤子が気をつけて作る料理は口に合わず、ナンデモカンデモ細切れにするんだナ、とか、たまにはステーキが食べたい、など独り言のように言った。
父親は一人で留守番することを嫌がり、瑤子たちの行く所にはどこへでもついて行った。
「なにか起こったらどうする」と、一人でいることを病的に怖れる彼に、「そうなったら死ぬしかないだろ」と、アンディはとうとう憎まれ口をきくようになった。
ようやく老人との二ヶ月が過ぎ、妹の家に連れて行かれる彼を見送った瑤子は、決して我儘な老婆にはなるまい、と決心した。
しかし、老人から学ぶことも多かった。四月始めの汗が出るほどの好天気に、アンディは早速トマトの苗を植えた。
老人は、五月の十日まで待たぬと霜に当たることがある、と忠告したが、彼は笑って聞かなかった。
そして霜は五月の二日に降り、苗は全滅した。
満月の日に獲った蟹には肉がない、とも言った彼は正しかった。
義妹がバスケット一杯買って茹でた毛蟹は、汁ばかりで肉がなかった。それは丁度満月の日であった。