Mrs Reikoの 長編小説   戦争花嫁                        

          アンディの故郷 ヴァージニア州 5

老父はその後、妹の家に行った後すぐ腎臓を病み、入院してから肺炎を起こして一週間ほどであっけなく死んだ。

オハラ一家は近くの古い酪農家の家屋を借りて移ることになった。

その家の近くには、壊れかけた小屋とサイロが立っているだけで、辺りに人家は見えず、見渡す限りトウモロコシや高粱の畑が延々と続いていた。

その家の近くで側を小川が流れる四十エーカー程の土地を買った。

松の木が生えているその土地は、パルプ材としてトラック一台分が六十ドルにも売れる、と不動産屋に言われて買ったものであった。

彼は早速古いトラックとチェンソーを買って来て、松の木を切り始めた。

太い木の枝払いから、二メートルほどに切ってトラックに積みこむ仕事は、容易なことではなかった。

ロバートが夏休みに仕事が見つからない、と言うので、アンディは「ヴァージニアに来て木を切れ、売れた分の金をやるから」と飛行機代を送ってやった。

喜んで来た彼は毎日アンディと共に木こりをし、まとまった金を手にして夏休みの終わりにカリフォルニアに帰って行った。

高校を卒業したフィリップが陸軍に入るため、迎えに来た新兵募集官の車で出て行った。

成績の良い彼は、卒業前に有名な会社二社から誘いの手紙を受け取り、応募すれば大学に行かせてやる、とまで言われたが、瑤子たちの勧めも聞かず一兵卒になることを選んだ。

ロバートにしてやったように、せめて一年は近くの大学に行かせてやる、と言う瑤子の言葉にも従わなかった。

ヴェトナム戦争は既に終わっていたので、瑤子とアンディはさほど心配もせず、彼を送り出した。

狩猟の季節になり、彼ら夫婦は鹿狩の免許をとった。

瑤子は新しく買った十二ゲージの銃を担ぎ、野原を歩き回った。

鹿は多くいるものの、なかなか射止めることはできなかったが、森の中の紅葉が敷き詰められた大地を歩き回るだけでも、彼女は充分楽しかった。

一度三十メートルほど先の丘の上で見た、牛かと見まがうばかりの大鹿を狙い、撃ったが当たらず、まるで森の王者のような風格の大鹿は瑤子をじっと眺めた後、ゆっくり踵を廻して立ち去った。

前庭に繋いでおいたハッフィを時々放して自由に走り回らせていたが、ある日、子豚を殺して食べているのを見た彼らは、また繋いでおくことにしたが、一旦自由を味わった犬は悲しそうに泣き続け、仕方なく放すと、また子豚を咥えて帰ってきた。

隣りの農場で働いている男が小屋で飼っている子豚であった。

男は許してくれたが、猟犬しか飼わぬヴァージニアでは、シェパードのような犬は嫌われていたので、殺すしかなかった。

アンディは家の裏に囲いを作り、郵便で注文した一ダースほどのヒヨコをそこに放した。

ひよこはすぐ大きくなり卵を生み始め、家族三人では食べきれぬほどであった

鶏は、家の周りにまで溢れ出て、あちこちに巣を作り、そこからまたヒヨコが出て来て親鳥の後をヒョコヒョコついて歩くのも可愛かった。