Mrs Reikoの長編小説  戦争花嫁                         

                             ドイツ 3

瑤子はまた妊娠した。

相変わらずの眩暈と吐き気で床から起き上がれぬ日が続いた。

アンディは仕事から帰ってくると、辛抱強く家事をし、子供たちの世話をした。

ドイツ人のメイドを雇おうとすればできぬことではなかったが、母への送金と車の月賦に追われる暮らしでは、無駄使いができなかった。

しかし、予定日の二ヶ月ほど前、アンディは瑤子を説き伏せて、クリスティという四十前後の女を雇った。

アパートの屋根裏にメイド用の部屋があり、メイドたちはそこから各家庭に降りて来るのであった。

クリステイは若い瑤子に最初からイヤに親しげに、まるで母親のように、接した。

勤め始めてすぐ、自分の家族は東ドイツにいて、ろくに物も食べられないから、と瑤子にカムセリからコーヒーや砂糖を買ってきてくれ、と頼んだ。

お金をよこして頼むので最初は嫌とも言えず買ってやっていた瑤子は、あまり度々のことなので、主人がダメと言ってる、と断った。

カムセリで働いたことのある瑤子は、そこで各家庭の購買量の統計をとることを知っていたのでブラックマーケットの罪をアンディが被らないとも限らない、と思ったのだ。

二月七日の夜、産気付いた瑤子は、自家用車が無いので、一人の兵隊が運転するジープに乗せられ、スツッツガートの病院に運ばれた。

クリスティが彼女の部屋にいなかったので、アンディは子供たちと家に残らなければならなかった。

分娩室に入れられた瑤子は、医者や看護婦たち大勢が軽口を叩き合う中、下半身剥き出しで両足首を輪に引っ掛けられ、長い間放り置かれた。

普通はシーツで脚全体を覆うべきことを知っていた瑤子は、陣痛と屈辱で二重に苦しんだ。

明け方生まれたのは八ポンド以上もある大きな男の子であった。

元気な声で泣く赤子に哺乳瓶をあてがいながら、瑤子は早くその子をアンディに見せたくて彼が現れるのを待ち焦がれた。

しかし、とうとうその日彼は姿を現さなかった。

翌日の夕方、ようやく大きなハート型のキャンディの箱とピンクのヒヤシンスの鉢を抱えた彼がやって来た。

クリスティが流産して病院に入っている、とアンディに告げられ、折角雇ったメイドが瑤子と時を同じくして入院とは、瑤子は言葉も無くため息をついた。

子供たちを託児所に預けてきた彼は、すぐ帰らなければならないが、今度は瑤子の退院の日まで来られないだろう、と言って去った。