Mrs Reikoの長編小説  戦争花嫁     

              狩猟    ジョージア州 10

グリーソンがミシシッピーから出て来た理由を打ち明けた。

彼が仲間と狩猟していた時、誤って農家の豚を撃ち殺してしまった挙句、裁判沙汰になりそうになったので、その前に逃げて来た、というのが、彼の言葉であった。

気性の荒いミシシッピーの人間にはありそうな事と、瑤子は面白がって聞いていた。

彼は瑤子に心から感謝しているようで、始終感謝の言葉と、そして、瑤子を褒める言葉を忘れなかった。

褒められるたびに瑤子は、あなたがいると愉快だから居てもらっているので、別にお世辞をいうことはないのよ、と言った。

「お世辞じゃないんだ」とアメリカ人特有の大仰な表情で強く否定した彼は、しまいには、女神のように美しい、とまで言って瑤子を噴き出させた。

三十才を過ぎたばかりの彼女を、今が女として最高に美しい年頃なのだ、と彼は真面目な顔をしておだてた。

日本に駐屯していた時から“女たらし”で評判だった彼の言葉を聞きながら、こういう風に“女たらし”は口説くんだナ、と瑤子は面白半分納得した。

たとえ本当の事とはいえ、笑いながらでも平気で彼女を傷つける言葉を口にする

アンディと胸中比較していた。

二ヶ月ほど、そのように興味深い毎日が過ぎ、グリーソンがいよいよミシシッピーまで妻子を迎えに行く日が来た。

本当は行きたくないんだ、と何日も前から繰り返していた彼が出て行った後、瑤子は酷い気落ちを味わった。

アンディが間もなく帰って来るというのに、何故こんなに寂しいのか、自分自身でも解らなかった。

その後、ドイツから帰ってきたアンディに、グリーソンの話しをした瑤子は

彼が行ってしまって詰まらない、と洩らした。

アンディは笑いながら、「きっと彼に恋しちまったんだ、」と瑤子をからかった

恋と言うほどのものではないが、兎に角彼は面白い男だった、と瑤子が言うと、

「彼は全くチャーミングな男だからナ、」とアンディが言った。

ドイツ滞在中も相変わらず毎日手紙を寄こしていた、以前と変わらぬアンディの優しさに、瑤子はまた彼への情熱を取り戻した