Mrs Reikoの長編小説    サンタ アナの風

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祖国を離れて以来あちこち移転ばかりしてきた真紀であったが何処へ行っても日本人どうし肩を寄せて助け合ってきた。

佳恵の心細さがよく解るのであった。

佳恵は気が良くて親切であるから友人も沢山居そうなのに、三人の子供達を育てる事に追われて付き合いの時間を持たなかったのか、この日本人の多い南カリフオルニアの土地に長い事住みながらあまり友人が無かった。

真紀が隣に越して来た時は大喜びで早速自宅の庭にたわわに実っていたレモンを持って尋ねて来てくれた。

 九州の実家は酒造りが商売だったという佳恵はおっとりした性格で子供達にもうるさいことを言わず好きなようにさせていた。

子供達が彼女の英語の発音が可笑しいと笑う時、真紀の方がムッとする時があるのに、「では、どう言うの?」と何度も子供に聞き返して発音の練習を繰り返す様子は無邪気そのもので、真紀はいつも感心すると共に多少いらいらした気持ちで眺めていた。

「私、ちょっと佳恵のところに行ってくるわ」と夫のビルに声をかけて先ほど脱いだばかりのブレザーに手を通した。

「こんなに遅く?一人で大丈夫かい?」

と驚いた表情で真紀を見た。

「何かいたずら電話が再三かかってきてジエニーと二人でひどく怯えているようだから、マイケルが帰ってくるまで一緒に居てあげると言ったの」

ハンドバックの中から車のキーを探し出し「遅くなるかもしれないから先に寝ていて」と言いながら戸口に向かう

「何かあったら直ぐ知らせるんだよ」と言う、ビルの声を背中で受け止めて外に出た真紀は濡れたブランケットのような夜気にぶるっと身震いした。

大分静かになったパルム アヴェニューを東に向けて車を5分ほど走らせ油を流したように光る入江の脇で左折して少し先の十二番街に入って二軒目が佳恵の家である。

道路に車を止め赤い屋根瓦と白いモルタル塗りの家につながるドライヴウエイを歩きながら、玄関脇の夜目にも白く群り咲くスタージャスミンの香りを胸の奥まで吸い込み、ああ良い匂い、家でも一本植えなければ、と真紀は思った。