Mrs Reikoの 長編小説   戦争花嫁                        

      アンディの故郷 ヴァージニア州 6

 オイルショックが田舎にも波紋を投げかけた。

ガソリンの欠乏と共に、車で使う不凍液や砂糖が高騰した。

アンディは、ガソリンを確保すると共に、不凍液や砂糖を買いだめした。

野生の黒苺がたわわに実り、瑤子たちのほかに採る者もいない、親指ほども大きな黒苺をバケツで五.六杯も収穫した。

アンディは、ワインを造る、と言って、黒苺に高価な砂糖を混ぜ、ポリバケツで地下室に寝かせた。

やがて黒苺は芳醇な香りを醸し出し、側を歩く者が酔っ払うほどであったが、アンディが壜に詰めて蓋をした後、暫くして、ポンポンと破裂し、とうとうワインは一滴も飲むことができなかった。

瑤子も高価な砂糖を使って黒苺のジャムを作ったが、うっかり焦がしてしまい、焦げ臭いジャムは誰も食べたがらず、長いこと戸棚にしまわれていたが、ついに捨てられた。

アンディは、酪農家から生まれたばかりのオスの仔牛を安く買って育てると、三ヶ月後には仔牛肉として良い値で売れる、と聞き、手始めに二匹買って、これも高価な粉乳で育て始めた。

つぶらな目をした黒と、白黒斑の仔牛をSalt(塩)と Pepper(胡椒)と名づけて可愛がったが、三ヶ月経たぬうちに病気で死んでしまった。

そして、あの惨事が起きた。

ジョージアナとドンの一人息子のトミーと、彼の従兄のジーンが自動車事故で死んだのだ。

ドンは酒を飲まなければ朴訥な良い男であったが、酒癖が悪くて親類の者たちに敬遠されていた。

その日、ビールを呑みながら、トミーとジーンを乗せて野球試合の帰り道、道路脇の溝にタイヤを突っ込み、車が横転した。

一人は投げ出され、一人は車内で即死した。二人とも十一歳であった。

子供たちが連れて行かれたリッチモンドの病院で、二人共死んだことを知らされた瑤子とアンディは、ジョージアナの家に向かったが、家に着かぬうちに、ドンの泣き叫ぶ声が聞こえてきた。

道路脇で友達に囲まれた彼は、車が通る度に走り出て自殺しようとし、友達に引き

止められ、なだめられていた。

一方、ジョジーアナは家の中で泣き叫ぶ二人の姉妹の側で、泣く事も忘れたように虚ろな顔で座っていた。

瑤子は人懐こいトミーを思い出して涙をこぼした。

母親に似たトミーは、口が達者で、よく大人びたことを言って人を笑わせた、素直な良い子であった。

アンディの叔父の家である、ジーンの家に行くと叔父は黙って涙をぬぐい、叔母は身をよじって泣いていた。

悲しい、悲しい二つの葬式に次々と出席して、やっとアンディ夫婦は息をついた。

トミーの葬式に頼まれて来た、白帽に長いドレスのメノナィト(清教徒)の、化粧気の無い美しい女性達が、伴奏無しで歌った賛美歌は荘厳のうちにも甘美で、心がゆさぶられた。

宗教的戒律の厳しいメノナィトの村落は、ヴァージニァに数多くあり、彼らは未だに十九世紀時代のような生活を営んでいたが、呼ばれると他宗教の葬式にも賛美歌を歌いに来た。

ドンは五百ドルの罰金で事が済んだ。

車中に、開けられたビールの缶を持っていたことに対しての罰であった。