Mrs Reikoの長編小説    サンタ アナの風

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 Uターンを終えてからちらっとホテルの方を見るとホテルではなく、右隣の歯医者のドアから中に消えて行くジョージの姿が一瞬真紀の目にうつった。

若い恋人同士や酔っ払いが我がもの顔で歩く車道をハラハラしながら運転してようやく立体交差に出て、ホッとしてスピードを出した。

不夜城のボーダーパトロールでは深夜のため、一箇所しか開いてないブースで検査を待つ二、三台の車の後につき、エンジンを止めた。

広場のあちこちには極彩色の植木鉢、又は聖母マリヤや象などの焼物が山積みになっていて、昼間はそれらを旅行者達に売りつける商人達が群れをなすのに、今はそれらを見張り番する人たちであろうか、四、五人の男たちが車座になって話しをしていた。

前の車のトランクを開けさせて熱心に中を調べ、ドライヴァーの差し出す紙を読み終えやっとその車を通過させてから真紀に来いと手で合図した若い男のパトロールは前屈みに真紀の顔を覗きこみながら「何処の国民?」と聞いた。「U,S,A」と答える真紀に重ねて「メキシコから何か買ってきましたか?」と聞く。「何も買ってきません」と言う真紀の顔をいっときじっと見つめてからちょっと後ろに下がって車全体を見廻して

「OK」と通してくれた。

 街灯だけ残して真っ暗な我が家に帰った真紀は水道の水をジャージャーと出しグラスに満たした水を一気に飲み干してから始めて人心地がついた思いであった。

 ベッドで寝ている夫の側にそっとすべりこん時、気配で目を覚ました夫のビルが「随分遅かったね」と言うのに、「理由は明日話すわ」と言い真紀は枕もとの電灯のスイッチを切った。