母と息子のセンチメンタルジャーニー

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2月もそろそろ末になった。ある日、私はトムに真面目にバケーションの話を切り出した。

彼は私の期待に反して、アメリカに予定通り帰るという。ガールフレンドの家に金を払って寄宿する身にとって、親が金を払ってタダで、それも好きな沖縄でのバケーションは悪くないと思うのだが、彼はナンと言ってもウンと言わない。

どうして、と聞くと、自分はカヌー漕ぎのクラブの役員で、どうしても近じかミーテイングに出なければならない。それにシャーリーにも早く会いたい、と言う。

ガールフレンドと言っても、20年も同棲している仲間だ。正式な夫婦でも20年も一緒に居れば、そろそろ鼻についてきそうなものだと思ったのは 婆さんの独りよがりな思惑だったのか。

それでも、お前さんはバカだねと、彼にも解る日本語で罵倒したが、彼は、どこ吹く風と受け流して、やはり予定通り帰ると、言う。

その頃にはアメリカでも、コロナは大々的にニュースに取り入れられ、国民は他国から入る人たちを非常に警戒している、と伝えられていた。

帰ってもみんなに嫌がられて、私たちを受け入れる人などいないかも、と言うと、彼はシャーリーにメイルすると言って、携帯を手にした。

次の日、彼は沈んだ声で言った。”自分はシャーリーに失望した。“

聞くと、彼女は一応考えさせてくれと、言ったそうである。アメリカのコロナの感染は一網打尽の勢いで広がっていて、特にカリフォルニアは酷く、誰もが恐れて家からも出たがらないそうである。

さもありなんと納得して、別にシャーリーにあたることはない。

自分だったら、コロナがナンだ、直ぐ帰ってこいと、言うけど、と、慰めるが、トムはまだ意気消沈している。

やはりここでバケーションするか、と持ちかけると、

イヤ、帰る。シャーリーが受け入れなかったらテキサスの彼の次男、ジョンの所に行こう、と言う。

この孫は、もう30過ぎのいい大人で、消防士の上の方の役をしていて、それに独身だ。私にとっても都合の良さそうな話なので、それも良いねと言って、帰り支度をする。

トムは全日空に予約をとる。 続く