母と息子のセンチメンタルジャーニー

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シャーリーの前夫は金持ちだそうで、彼女は20年も前に離婚したその夫から、未だに高額の慰謝料を受け取っていると言う。

慰謝料を失わぬ為にのみ、トムとは正式に結婚もせず同棲を続けているそうだ。

仕事で得る収入と慰謝料で、彼女は相当豊かな生活をしている。贅沢好みのトムには理想の同居人だ

人種のるつぼのアメリカの中で、白人は優越感を持っている。ノルウェー系の彼女はその白人だ。

人種平等を唱えるアメリカでも、白人にコネがあれば大分得をすることがある。

贅沢趣味のトムはそれを悟っての上か、前の嫁さんもデンマーク系の白人だった。

 それに引き換え天邪鬼の次男のジムは、白人以外の異人種を好むようだ。

私が知っているだけでも付き合った女性は、イラン、韓国、日本、黒人系統で、ヨーロッパ系の女性のことは聞いたことが無い。附き合いたくても、モテなかったのか。

シャーリーは相変わらず愛想良く、ハグして私たちを迎え入れた。

”受け入れてくれて有難う、”と礼を言う。彼女には白人特有の尊大さがあり、いつも礼儀正しい。

今までも何度も会っていたが、いつまでも他人行儀の表面上だけの付き合いで、それ以上は親しくならない。

当分の下宿代だよ、と言ってトムにお金を渡す。

居候の彼に肩身の狭い思いをさせぬよう、ひと月分だと渡したそれは、相当な額だ。

トムは辞退もせず受け取る。

さて一緒に暮らして驚いた。整理整頓狂とでも呼ぶべきか、前から知っていた彼女の潔癖ぶりには今更驚いた。

趣味を凝らして飾り立てた家の中の物が、ちょっとでもいつもの位置から逸れると気になるらしい。

何気なく座ったソファーのクッションの位置が、すぐ元の位置に直されているのを見るとまるで監視されているようで気味が悪い。

外食が殆どの彼女が、たまに手伝うと言って調理している私の側に来るが、すぐ後で使うつもりで置いた包丁を彼女は、さっと取り上げて洗いすすぎ、布巾で拭いて引き出しにしまい込む。さてと、包丁を探す手間に、料理で忙しい私は苛立つ。

リビングルームのクッション一つ違った位置に置き換えられていても直ぐ直す彼女の性質は、癇性と言うかナンと言うか、私のような、ちゃらんぽらんの人間には耐えがたい。

ところが、トムもそれに感化されたか、彼女に負けない整理整頓狂い だった。

沖縄のホテルで私がベッドメークもせず、放りっぱなしにしている時、彼はキチンとベッドメークする。誰が来るわけでもなし、放っとけばと、私が言っても、気になるからと、言いながら丁寧にベッドを直す。 続く