ヤンキー老人ホーム体験記

 

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紹介された老女たちは、ウオーカーで歩くべティとジョーアン(それぞれメキシコ系、)マーナ(白人で殆ど目が見えぬ、)に挨拶後、私は一応私の立場を説明した。

病気のこと、売りに出すつもりのコンドのこと、生まれ故郷の日本のこと、どのような機会で、このアメリカに永住しているか等々を、熱心に聞く彼女達の興味は尽きない。

 興に乗ってお喋りを続ける私の側にもウエイターや、ウエイトレスが次々と来て、煩いほど注文を聞く。

コーヒーを、ポーク・チャップを、果物をと、口早に頼む私は喋るのに忙しく、食べ物には殆ど手が付かぬほどであった。

それでもウエイターが押して来た、糖尿病の私が手を出さぬ色とりどりの豪華なデザートの車も横目でちゃんと確かめた。

 やがて1時になると、老人たちはサッと、と言っても、車椅子やウォーカーを頼る人たちは、それなりに、引き上げて、広いダイニング・ホールは、私たちと後片付けの使用人だけになっていた。旅先のホテルにいるような気になっていた私は、いつまでも駄弁って居るつもりであったのだ。

 入居を決めた時、心配した息子たちが、糖尿病人用の食事は別に用意されるのか、と聞いた時、確かイエスと言った筈と、ウエイターのエドに聞いてみると、マネージャーに聞いてみろと言われるまま、マックに聞くと、糖尿病人用の食事は特に作らぬ、とのことであった。

 チョッと話が違うなと感じたが、部屋には小さな冷蔵庫もマイクロウエーヴもあることだし、料理を気軽にする私は、部屋で好きな物を作れば良いことと、黙っていた。

 事務室のカウンターに置かれた数部の新聞の一部を持ってダイニング・ホールの隣の図書館に入る。

10畳ほどの広さの部屋はよく整頓されていて、色々私の読みたい本が置かれてある。ただし、最近白内障が酷くなった私は細かい字を読むのが億劫になっており、題名だけサッと見てやり過ごす。

新聞も主な見出しだけ拾い読みして、本当に興味のある事柄だけ眼を近付けて一心に読む。

 読み終えて新聞をそこにあるテーブルに置き、長い廊下を歩いて階段に向う。

エレベーターが2基あるが、運動のため私は3階までの20段ほどを登る。

階段を嫌う老人たちの住むホームの、3メートル4方のコンクリートで囲まれた、無人のstair-well 〔吹き抜け階段〕は、音響が物凄くてチョッと不気味だ。

 オソロシク重いドアを開けて明るい廊下に出、ホッとする。

中庭を見下ろす大きな窓のある、3階の廊下を歩いて部屋に向う。壁際には相変わらず豪華な絵画が掛けられ、所々に見られる家具や置物もなかなか立派だ。 続く