ヤンキー老人ホーム体験記

 

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途中誰にも会わず部屋に入った私は、自宅から持って来た愛用の古びたリクライナーに腰を下ろして、ホッと一息つく。

眼の前には最近買ったばかりのソニーの大きなテレビがデンと控えている。

ホームにはケーブルがついていないので、住民たちは自前で契約することになっているが、ケチな私はケーブル代など無用の経費と、自宅にいた時から、ケーブル無しで目の前に入ってくるプログラムだけを見ていたが、この度も入居前から来ていたケーブル会社の広告を無視し、眼の前に現れる映像だけを、ボンヤリ眺めていた。

 幸い電子製品に詳しい息子のリスがワザワザ持って来てくれた直計15センチ、長さ1メートル程の、筒のようなアンテナのお陰で、何とか自宅で見ていただけのプログラムは見られる。その他にも、リスが加入しているNetflixという会社が送る古い映画やテレビのシリーズ物を、家族として私も鑑賞できるようにしてくれたので、時代遅れではあるが、それらを次々と見て当分退屈することもないだろう。

 ビング・クロスビイとか、フランク・シナトラが出て来る映画を、最初は懐かしく思って見ていたが、彼らの歌は亡き主人や過去を回顧するものばかりで、何となく憂鬱になってきた。それに、今更ながら時代の思想の違いが鼻につく。

それで、それまで殆ど見ることが無かったテレビのシリーズ物に切り替える。

だがそれは又それで、最近流行の凄惨・殺伐たる光景の続出で驚き呆れ返った。

そしてそこで繰り返されるシツコイ濃厚なラヴ・シーンにも辟易した私は、その都度、眼を瞑って遣り過していたが、いつのまにか眠り込んでしまったものとみえる。

眼が覚めたら4時過ぎで、5時から始まる夕食までにはあまり時間が無い。

 慌ててダイニング・ホールに行く支度を整える。

一応部屋を出れば外部なので、良い加減な服装では出られない。

ホームの案内書にも書いてあった、一応マトモな服装で食事に来るように、と。

 まず髪をとかし、着ていたブラウスの皺をのばす。おお、そうだ、補聴器・部分入れ歯・眼鏡、それに、いつ何時必要になるか知れぬ、軍病院用のIDの入ったバッグも忘れてはならない。

ああ、メンドクサイ。自分の家に居ればどんなダラシナイ格好でも構わないのに。

   続く