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西の太陽が木の間を縫って光を投げ、万物を茜色に染めていた。
恐ろしい嵐は、過ぎ去り、林の中は木の葉一枚ソヨともしなかった。
白い花が真っ盛りの野苺の叢の下を、茶色の野兎が餌小屋訪問のため、ゆっくり跳ねて行く。
猟犬が一斉に吠え始めた。ヘンリイの軽トラックを歓迎する咆哮である。
犬たちが皆同じ方角、ゲートの方角を見、後足で立ちながら吠えていることを、トーマスは知っていた。
彼は犬の咆哮は気にしなかったが、父親との確執が犬には冷淡にさせた。
父親の気難しい顔を見たくなかったが、腹が空いていた。
ランチボックスを取りにトラックに向かった。
トーマスにとって、父親のヘンリイが女を見る時の表情は驚異であった。
ヘンリイは、トーマスより6年後に生まれた妹のナオミを溺愛していた。
ナオミのみならず、ほとんどの女を見る時はいつでも人の好さそうな笑顔になっている。
それはトーマスに一度として見せた事のない表情だった。
女達は誰もが優しい笑顔のヘンリィと話すのを好んだ。
父親は狩りの次に女が好きなのだ。いや、狩りと女だけが彼の全てなのだ。
どうしてあの老いぼれが、女にモてるのだろう。
トーマスは自分に見せる苦虫を噛み潰したようなヘンリィの顔を思い浮かべる。