Mrs Reikoの短編小説「ジョージアの嵐」

 10

ホイッパー・ウエオ(彼女をよく叩け)、ホイッパー・ウエオ”と、パートナーを求めて囀る鶫の快い鳴き声の中、“バタン”という大きな音で、熟睡していたトーマスは目を覚ました。

ベッドの脇の時計は2時半を示している。

 パパじゃない、トーマスは考えた。

ヘンリイが狩から帰って来た証しの、犬たちの鳴き声を、12時頃聞いたと、朧に覚えている。

ヘンリイは、狩から帰ると、家に行く前、必ず犬たちを囲いに繋いだ。  

風かと、寝返りを打ち、また眠ろうとしたトーマスは、継続する微かな物音に聞き耳を立てた。

それは囁き声のようであった。

ゆっくり起き上がった彼は、ベッドの脇に立てかけてあったライフルを手にした。物音は遠のくようであった。

トーマスは、ズボンと長靴を履き、そっとドアを開けて、覗き見た。

大きな暈を被った満月の下、農具の間を2体の黒い影が偲び足でバーン(まぐさ倉庫)に向かって動いていた。

「へーイ!」

 トーマスが叫んだ。一時、ギョッとしたように立ち止まった影が走り出した。

トーマスは、脅しの一発を空に向かって放った。

 「野郎どもめ!フリーズ!」

 彼はまた叫んだ。そして彼らを追ったが、板の破片につまずき、その拍子に、引き金を引いてしまった。

一人が倒れ、すぐ立ち上がった。

仲間が彼の脇の下に手を入れ、支えながら走った。

 トーマスは立ち上がろうとしたが駄目だった。

彼の右足首から激痛が走り、体重を支えることができなかった。

走る二人が隣家の林に消えるのを、彼は歯噛みして見送った。

 銃を杖に、顔をしかめてゆっくり立ち上がったトーマスは、足を引きずりトレーラーに帰った。

 トレーラーの暗い電球の下で、彼の足首は見る見る腫れ上がった。

ズキズキと、痛みは耐えられぬほどであった。

濡れタオルを紫色に腫れ上がった部分にあてがうと、少し楽になったような気がした。

シェリフを呼ぼうと、思ったが、横になっているだけがせい一杯で、何をすることもできなかった。

あいつらは行っちまったし、また帰って来ることはあるまいと、彼は諦めた。