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二時のミーテイングに行かなければならぬので、もっと欲しかったら、自分で取りに行けと、キクはシチューの皿を彼に渡しながら言った、
「また、オリンピックか」 彼が唸った。
「そう、オリンピックよ。ああそうだ、あの女の人の名前は山口由美子といって、ジョージアの競技場を見て廻っている幹部の秘書よ。
腕が折れたけど、もう大丈夫、セント・メーリイ病院にいるの。後で彼女を見舞いに行くかも知れない。」
「晩飯は何を食べればいいんだ?」
「シチュー。」 二階に上るキクの声が遠くなった。
「今食べたばっかりだ。もうシチューは飽き飽きだ」。 トーマスがボヤいた。
「おなかが空けば食べられるよ」微かなキクの声が聞こえた。
この頃彼は、よくシチューを食べているような気がする。
作りおきの利くシチューを大鍋に一杯作っておけば、二,三日は持つので、キクは最近よく作る。
「イヤになるナ!」彼は唸り、座っていたリクライナーに体を伸ばした。
しかしすぐ起き上がり、キクが脇のテーブルに置いていったアスピリンを2錠口に放り込むと、デーヴィドに電話した。
ヘンリイが二階から降りて来る前に早く家から出て行きたかった。
デーヴィドに迎えに来てくれと、頼んだ。