Mrs Reikoの短編小説「ジョージアの嵐」

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アトランタの、オリンピック開会式は、多彩な催しごとと共に盛大に行われた。その日の爆弾騒ぎを数日後に聞いたトーマスがそれを憂うには、忙し過ぎ、疲れ過ぎていた。

 非情なまでに照りつける太陽のため、粘土質の農道は古いチョコレート・ケーキのようにひび割れ、車が通る度に埃が舞い立った。

暑さでフウフウ吐息する、ファロウイング・ハウス内の雌豚たちの予防注射もしなければならず、床は毎日水で洗い流さなければならなかった。

 「ハイ!」 突然トーマスの背後で声がした。

彼は直径2インチのホースを手に、ファロウイング・ハウス内の、最近空らになった囲いの中を洗っていた。

雌豚が熱病で死に、弱い子豚も全部殺さなければならなかった。

 強い消毒液の匂いの中、マスクの上で目玉だけが出ていたトーマスは振り返った。

大きな麦わら帽子の下の由美子が、建物中央の通路に立っていた。

白いシャツとカーキのショーツの、ブロンズ色に陽に焼けた彼女は、溌剌として、エネルギーに満ちているように見えた。

彼女は微笑みながら近寄った。

 「何しているの?」麦わらが散らばった通路の水溜りを器用に跳び越えながら、彼女は聞いた。

 「病気で死んだ雌豚の囲いを消毒してる」

 水を撒きながら、エーモスが呟いた。

 「なんで死んだの?」

「熱病」

コレラじゃないでしょう」

 恐れられている豚の伝染病の名前を、由美子は聞いたことがある。

 「ノー! 縁起でもない」

 トーマスは、その不吉な名前を振り落とすかのように、首を振った。

 「行って水を止めて来てくれないか」

 由美子は蛇口に向かって跳び歩きながら言った。

 「私、田舎が大好きなの。いつも勝つことばかり考えてる人たちといると、疲れちゃう」

 「今日は勝ったのかい?」

 「今日は休日よ。だからあなたを訪ねて来る時間があったの。キクに会いに行ったけ  ど、居なかった」