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「今日は日本のチームが勝つと良いね」
トラクターの轟音の中、彼が叫んだ。
「そうね。彼女らは今日強いチームと勝負するのよ、アメリカンと。」
「ああ、それなら負ける方がいい」
「勿論そうでしょうよ」彼女が笑った。
「でも、私はどっちでもいいの。ただのゲームなんだから」
トーマスはトラクターを止めて餌袋を下ろし始めた。
彼女を助け下ろしてやろうかと、彼は思ったが敢えてしなかった。
パパならそうしたであろう。でも、俺はパパではない。
それに、日本人の女は助けられるのを期待しない。 彼は袋を下ろし続けた。
由美子は、大きな長靴で飛び降りるのに苦労したが、何とかやり遂げた。
彼女はピッグ・ぺンに近寄り、トーマスが餌を入れた、樋型の餌箱に巨大な豚共がキイキイ鳴きながら、先を争って鼻を突っ込むのを眺めた。
「クシャミが出そうよ」 せわしなく食べながら、同時に細かい餌の粉を豚共が鼻腔から吹き出すのを見て、由美子が笑った。
袋全部を空にした後、トラクターの荷台に座ったトーマスが、キクの言葉を思出しながら、聞いた。