Mrs Reikoの短編小説「ジョージアの嵐」

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 「選手たちは君と仲が良いのかい?」

 キクは通常愚痴を言う女ではなかったが、それでも時々選手たちの傲慢さをこぼしていた。

「彼女たちは自分をなんだと思っているのかしら、彼女たちの礼儀の無さときたら」

疲れた顔で誰にともなく話していた。

 「表面上は、大きな問題なく過ごしているわ。でも、彼女たちは機会があれば直ぐ不満を示すの、まるで都合の悪い事は全て通訳のせい、とでも思ってるように」

「大変なんだな」

 「でも、それも仕事のうち、と思ってるから」

「私、飛行機のステュワーデスをしていた時、機上でオリンピックの役員にスカウトされたの。東京の大学を卒業した後、航空会社に勤めていたの」

 由美子は高学歴の女性である。トーマスは改めて気がついた。

彼は、農場で無邪気にに遊んでいる由美子の、学歴や資格など考えた事はなかった。

 無邪気に振る舞う由美子にとってはアメリカ南部の農場の仕事はただ珍しいだけの事なのだ。

俺とは住む世界が違うのだ。

それなのに俺は、もしかしたら、なんて甘い期待をもっていたのか。

「どうしたの?」

突然黙ってしまったトーマスに不審げに問いただす由美子に「何でもない」と言いながら「水道栓を捻ってホースをここに持ってきてくれないか」と叫んだ。

蛇口を捻ろうとした彼女が叫んだ、「きつくて出来ない」

「なんにも出来ないんだな」エーモスは笑って蛇口に向かった。

 木陰で彼らは由美子の持ってきたドーナッツとコーヒーでランチを取った。

 「大きな手、大きな口」 ドーナッツを殆ど一口で食べるトーマスを見て、由美子が笑った。

それから彼女は、4時に始まるゲームのため、一時には競技場にいなければならないと、立ち上がった。

歩きつつ道端の赤い野バラや白いクイーン・アン・レースを、屈んでは摘むその華奢な姿を、エーモスはじっと見送っていた。