Mrs Reikoの長編小説  戦争花嫁                              

                   苦難 カリフォルニア州 3

その春、モンテレィパークという、軍が契約している新しいデュプレックス

(二軒長屋)に移った

真新しい平屋のアパートからは海も見え気持ちが良かったが、内からドアのノブにはめ込まれたボタンを押すと、外からは開けられぬが、家の中からは簡単に開けられ、ノブを廻すことを覚えたエミイは、隙あるごとに外に走り出た

建具に手をつけてはならぬ、という規則で、別の錠前を付けることもできず、瑤子はいつも気が気でなかった。

ある朝、ゴミの回収男が、“ゴーバック、ゴーバック、”と言うのを聞いた瑤子は、パジャマの上だけ着てお尻を丸出しにしたエミイを窓外に見て、平謝りに謝って連れ戻した。

また、中佐のワイフだという女が怒鳴り込んできたこともあった。

外にあった娘の玩具の乳母車をエミイが持って行ったと、ついて来た犬が家に駆け込むのも平気で喋り続けた。

また、近所の小さな公園にエミイを探しに行った瑤子は、八才ほどの男の子がパンツを脱がせたエミイの上に跨ろうとしているところを見つけた。

脱兎のように逃げて行く男の子を見送りながら、瑤子は言うべき言葉を知らなかった。

三才をとっくに過ぎたエミイは便秘が酷くトイレに坐るのを嫌がり、処置の方法を知らなかった瑤子は、毎日バスタブの縁に腰掛けて、無理にトイレに坐らせたエミイの便通を三十分も待った。

泣いて嫌がるエミイに痺れをきらした瑤子がトイレから彼女を下ろすと、彼女はすぐパンツを汚し、腹を立てた瑤子が、ついお尻を叩く、ということが毎日の行事のようになっていた。

遠い薬局に行ってなにか良い薬を買う、ということは、運転をせぬ瑤子には思いもよらぬことであった。

何事にもただ“ノー、ノー!”と言うエミイは、いくら言い聞かせてもいうことをきかなかった。

クリブ(ベビーベッド)に放ったらかされていたロバートは、生後半月から夜泣き

をするようになった。

昼間瑤子がいくら揺すって起こそうとしてもぐっすり眠り続けるのに、毎晩一時頃には必ず目を覚まして泣き止まぬロバートを、精根つきた瑤子は終いには放っておいた。

それでアンディが起きて行ってミルクをやったり、おむつを替えたりしてあやすようになった。